あれから20年。当事者たちが語る「10・8」の真実 (2ページ目)

  • 島村誠也●文 text by Shimamura Seiya
  • photo by Nikkan sports

 巨人の先発を任された槙原氏は、試合直前の心理状態についてこう語る。

「巨人は相当な重圧がありました。ほぼ手中にしていた優勝を、最後の最後で失うかもしれないんですから。『負けたら大変なことになるぞ』という思いがありました。ファンやマスコミから何を言われるんだろうと。その重圧は凄かったですよ。僕の出来次第で、選手やファンが1年間かけて積み重ねてきたものをすべて台無しにする可能性があったわけですから......。中日とは立場が違いましたよね。中日は追い上げていた側だったので、負けてもそこまで厳しく批判されることはないだろうと。巨人の選手よりも楽な気持ちだったんじゃないですか」

 中村氏も「巨人の選手の方が、僕らよりも数倍プレッシャーはあったと思います」と言い、こう続けた。

「シーズンの最後に追いつかれて、監督は長嶋茂雄さん。巨人にしてみれば、絶対に負けられないわけですよ。しかも決戦の場所はナゴヤ球場でしょ。巨人にとっては悪い条件が揃いすぎていましたよね」

 さらに中日先発の今中慎二は、ナゴヤ球場での巨人戦は11連勝中と抜群の相性を誇っていた。仁村氏は当時、「勢いのあるウチが勝つ」と報道陣の前で何度も口にしていた。

「でもね、現実はそんなに甘くないと思っていましたよ。"10・8"は結果的に1試合だけど、やはりシーズンを通した戦いの積み重ねがその1試合に凝縮されるものなんですよ。当時の中日のメンバーを見ると、巨人と比べればヒドイもんでしょ(笑)。10月6日の阪神戦も、僕がホームランを打ったりして勝ちましたけど、勢いどころか、選手たちのプレッシャーは凄かった。今だから言えるけど、巨人に勝てる雰囲気はなかった。だから、あの試合に負けたのは必然だったんですよ」(仁村氏)

"10・8"を語る上で欠かせないのが、巨人が披露した槙原、斎藤雅樹、桑田真澄の先発3本柱による豪華リレーだ。槙原氏は試合前日に長嶋監督から先発を告げられたという。

「ローテーションの順番でいけば僕でしたから、気持ちの準備はできていました。長嶋監督に呼ばれ『明日は3人しか使わないつもりで行く』と言われたんです。『お前のあとは、斎藤と桑田が投げるから、思い切り投げてくれ』と。これで気持ちが楽になりました」

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