V3達成。脱・巨人スタイルを確立した原監督の名将度

  • 島村誠也●文 text by Shimamura Seiya
  • 小池義弘●写真 photo by Koike Yoshihiro

 この勝負どころでの強さという観点から見た時に見逃せないのが、リーグ最少の失策数(67個)と、リーグトップの盗塁数(98個)だ。さらに、その盗塁に関してはリーグトップの成功率(79.0%)を誇っている。飯田氏は「原監督の作戦が確立されていた」と語り、こう説明した。

「たとえば無死一塁の場面で、巨人ベンチは相手投手のクイックの時間を計り、この走者でこのタイムなら成功しやすいと判断すれば、盗塁のサインを出す。それから送りバントで一死三塁にする。ランナーが三塁にいれば、犠牲フライ、暴投、内野ゴロなど、得点になる確率が格段に上がります。それに相手チームが『巨人は走ってくる』と意識すれば、どうしてもストレート中心の配球になってしまう。そういうところをうまく利用しながら戦っていた印象があります。守備では、ひとつのアウトを確実に取るプレイが目立ちました。イチかバチかでダブルプレイを狙うこともありますが、今年の巨人に関しては絶対に無理をしなかった。それもチームの共通認識として徹底されていましたね」

 巨人OBの槙原寛己氏に今季の戦いを振り返ってもらうと、「選手の自立がもたらした優勝」と言った。今年はシーズン中に2度もコーチの配置転換が行なわれるなど、危機的なチーム状況に陥ったこともあった。

「今年の巨人は投打ともにかみ合わず、Bクラスになってもおかしくない状態でした。シーズン途中でコーチを配置転換したのは、選手たちに危機感を持たせる意味で良かったと思います。少なからず、選手は責任を感じているはずですから。ただ、これは選手たちが自立していたからこそできたことであって、そうでなければチーム内に不安が広がってしまいます。強いチームというのは、選手自身が勝負どころを理解していて、何をすべきかわかっている。巨人については、昨年までの2連覇が大きな自信になっていると思います。そして、これらの選手を育てたのは、間違いなく原監督だと思います」

 そして与田氏は、今年の原監督の采配について次のように総括してくれた。

「僕は2009年のWBCで原監督のもと、コーチをやらせてもらいましたが、印象に残っているのが決断力の早さです。監督というのは、ゲームの中で瞬時に判断しなければいけないことがたくさんあります。継投であったり、代打であったり……。その時に、ワンテンポ遅れてしまったために取り返しがつかなくなることが多々あります。その決断する早さはどこから生まれてくるのかといえば、情報力なんです。監督はチームのことをすべて把握できません。それぞれの担当コーチが選手の状態を監督に伝え、その情報をもとに監督が判断を下す。決断するのが早いということは、しっかりコーチが選手ひとりひとりの情報を把握し、監督に伝えていたということです。選手個々の力はもちろんですが、組織としての強さも感じましたね」

 今年の戦いぶりに「巨人らしさがない」という人もいるが、どんな状況に追い込まれても勝ち抜く強さが今の巨人にはある。そして、その先頭に立つのが原監督なのである。

 気の早い話だが、もし来年、原監督率いる巨人が優勝すれば、巨人軍の監督として史上2番目の優勝回数(8回)を誇る水原茂氏に並ぶ。そしてその先には、V9時代の巨人を率いた川上哲治氏の11回が待っている。原監督の挑戦は終わらない。

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