定位置なし。ソフトバンク・今宮健太が見せる超絶守備

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • 繁昌良司●写真 photo by Hanjo Ryoji

 さらに言えば、今宮に定位置はない。初回、先頭バッターの初球であっても、先発ピッチャーによって、キャッチャーのサインによって、バッターによって、守る位置を変えている。

「定位置と言われるところがあるとしたら、足の速い左バッターなら4歩から5歩、前へ出ます。その範囲で取らなければ、足の速いバッターはアウトにできませんから、ギリギリまで前へ出ようと思いますね。さらにセンターへ飛んでくる確率が低いバッターなら、三遊間へも4歩から5歩、動きます。(相手バッターが)日本ハムの中島卓也さんのようなタイプで、ボールが速いピッチャーなら、ショートというより、三遊間を守るというイメージです」

 今宮のプレイを見ていると、チーターを思い出す。

 一直線に獲物を追い、捕獲せんとする彼の動きが、まさに本能の赴(おもむ)くままといった感じなのだ。ステップを細かく刻んでリズムを取ったかと思えば、大股でボールを捕りにいくこともある。二遊間のゴロでも、頭から飛び込んで捕りにいったり、足から滑り込んでボールを体で抑えにいったり、時には捕ってから勢い余ってクルッと一回転して一塁へ送球したりすることもある。まさに、変幻自在なのだ。

「たとえば、二遊間のゴロを足からスライディングして捕りにいくのは、できるだけ早く投げたいと思ってるからです。スライディングしないと、勢い余って回転しなくちゃならなくなるし、そうすると時間がかかってしまう。回転を止めて開いて投げようとしても、速い球は投げられない。ここは勝負したいと思うと、足から行っちゃいますね」

 6月8日、甲子園で行なわれたタイガースとホークスの一戦。

 7回裏、タイガースの上本博紀が放ったショート後方への詰まったフライに、今宮はジャンプして飛びついた。半身のまま、バックハンドでグラブを最高到達点に差し出し、ボールはいったん、グラブに収まりかけた。しかし、今宮はボールを完全につかんでいたわけではなかった。ボールはグラブから飛び出し、今宮は右足だけを着地させる。そのまま前へ突っ込んで、顔面から落ちそうになりながらも、今宮はなんと横目でボールを追っていた。背後に消えていく、宙に浮いた ボールの落下点に、今宮はグラブを差し出した。ちょうど飛行機の翼のように左腕を後方へ伸ばし、捕球面を空に向ける。すると、こぼれたボールがグラブに吸い込まれた。芝に顔面を打ちつけた今宮は、それでもボールを離さない。一見、ナイスキャッチにしか見えないプレイの、わずかコンマ1秒の間に、想像を絶する動物的な動きが含まれていたのである。

「後ろの守備範囲は、誰にも負けてないかなとは思います。スタートには自信がありますね。どんな打球に対しても、常に行けると思って、まず一歩目を切っています。外野にポーンと上がっても、まず一歩目をバーンと切って、二、三歩行ってから、『あっ、オレのボールじゃないや』と思えば追うのをやめればいい。外野との間でも、バーッと行ってみて、声が聞こえたら引けばいい。常に、まずはオレのボールだというつもりで一歩目を切っています。だから、後ろでも追いつけるんだと思います」

2 / 3

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る