ローテ入りへ、斎藤佑樹が身につけたい「山本昌の技術」

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • 益田佑一●写真 photo by Masuda Yuichi

 しかし、バッターにとって打ちにくい斎藤のストレートは、マックスが140キロ、平均すると137~8キロの軌道なのではないかと思う。8割の力で真っすぐを投げている時の斎藤は、変化球の抜けもよく、キレもある。しかも実際、斎藤の140キロに満たない真っすぐに対して、バッターは見送ったり、差し込まれてのファウルを打ったりしているではないか。ストレートに関して、スピードガンの表示が140キロを超えて速く出るのは、斎藤に関しては黄信号なのだ。斎藤はこうも言っていた。

「打たれたくないと思うと、100パーセントでいってしまう。そこには、一球でも無駄にしたくないという気持ちがあるんです。力を抜いたボールを投げられれば楽なんでしょうけど、それを打たれてしまったらと思うと、後悔しそうな気がして、つい力が入っちゃう。やっぱり、真っすぐに対する欲があるのかなぁ……確かに、うまく力が抜けている時は、見逃されるかファウルになるんです。でも、そういう真っすぐをもう一球続けようとすると、力が入っちゃうんですよね」

 785日ぶりの勝利を挙げて以降は、勝ったり負けたりの“特別ではない”マウンドが続くと思っていた。しかし、ローテーションに定着できてない今もなお、斎藤にとっては“特別な”マウンドが続いている。

 斎藤には、140キロの真っすぐを“速く”見せる技術は備わっている。

 それ以上、力を入れて真っすぐを投げる必要はない。

 だから栗山監督も、試合後の斎藤にこう告げている。

「今日のボールはよかった。でも、腕の振りとボールが一致し過ぎてしまうと、プロは打ってくる。佑樹のバッターを抑える技術のひとつには、腕の振りとボールをいかにずらすかというものがある。そこを自分でコントロールできるようになれば、勝てるピッチングができるはずなんだ」

 試合後の札幌ドームの駐車場で愛車に乗り込む直前、斎藤は突然、左足を上げた。

 「シュパーン」

 彼はいきなり声を出してシャドウ・ピッチングをしたあと、こう続けて笑った。

「こんなふうに軽く、楽に投げる感じのほうがいいんですよね」

 彼にとって、1軍のマウンドはもはや特別ではない。

 そこで勝つためになすべきことは、彼自身が誰よりもわかっていた。

 真夏の鎌ヶ谷で今、斎藤は次のチャンスを見据えている。

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