785日分の強さを身に付け、斎藤佑樹は生まれ変わった

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • 益田佑一●写真 photo by Masuda Yuichi

 2番の鈴木大地に対しても、初球のストレートが外れたあとの2球目、アウトコースへのストレートを一、二塁間に弾き返される。

 2回裏の角中に右中間スタンドへ持っていかれたのもストレート、8番の金澤岳に打たれた痛烈な当たりのセンター前ヒットも、ストレートだった。9番の加藤翔平にもストレートをセンターの深いところまで飛ばされ、1番に戻って岡田に投げたストレートは指にかかりすぎて右の太ももに当ててしまった。

 斎藤がストレートに見切りをつけたのは、ここだ。

 角中にホームランを打たれて1点を先制された。それも1回表、2回表と、味方打線も得点圏に進めたランナーを還せず、フラフラの立ち上がりだった唐川侑己を崩せない。そんな矢先に一発で先制点を献上し、さらにツーアウト満塁のピンチを背負う。試合の流れを絶対に相手へ渡さないために、どうしてもここで断ち切らなければならない大事な局面で、斎藤は思い切って発想を転換させた。

 変化球を軸にしよう――。

 ツーアウト満塁になって迎えた鈴木に、斎藤はスライダーを投げ続けた。

 以前の斎藤なら、ストレートが走らない時に頼る変化球は、きわどいところを突こうとしてワンバウンドにしてしまい、カウントを苦しくしていた。しかし今の斎藤は、スライダーをストライクゾーンに投げられる。だから、ボール球が続かない。

 ボール、ストライク、ボール、ストライク。

 2-2の平行カウントから、膝元のボールゾーンへフォークボールを落とす。思わずバットを出そうとしてしまった鈴木はハーフスイングを取られて、三振――斎藤は満塁のピンチを凌いで見せた。

 試合後の斎藤はこう言っていた。

「右バッターに対してはそうでもなかったんですけど、左バッターへの真っすぐが全然、決まらなくて......でも、そこで変化球に切り替えられたのはよかったです」

 今、できることをやる――最近の斎藤がよく口にするフレーズだ。

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