4年目の覚醒。山田哲人が「ヤクルトの至宝」になるまで

  • 島村誠也●文 text by Shimamura Seiya
  • 小池義弘●写真 photo by Koike Yoshihiro

 ここで、杉村コーチが考えるティーバッティングの効果を確認しておきたい。

「選手たちは前日の試合で打撃フォームを崩されます。それをティーバッティングによって正しいフォームに戻すことが目的です。つまり、大きい波を作らず、小さい波で終わらす。そうしたら3割近くは打てるだろうと。僕の持論ですが、バッティングというのはタイミング、ポイント、バットの軌道の3つで成り立っていると思っています。ティーバッティングはこれらすべてを鍛えることができる。それに、ティーバッティングは単純な反復練習だけど体力もつくんです。僕が過去に出会った内川聖一(現ソフトバンク)や青木宣親(現ロイヤルズ)も同じ練習を繰り返しやっていました。山田には、それを信じてやってみるか、と説明しました。それからファームで打ち出して、再び一軍に昇格すると、最終的に2割8分3厘の成績を残しました」(杉村コーチ)

 山田自身も、手応えを感じていた。

「ティーバッティングをやっているうちに、試合でも逆方向にヒットが打てるようになって、この練習を続ければこの先もやっていけるかもって思いましたね」

 そして昨シーズン終了後、山田は杉村コーチと野球への取り組み方について何度となく確認しあったという。杉村コーチが語る。

「とにかく野球漬けになろうと。メシの時間、遊びの時間、それにあるのかどうかわからないけど恋愛の時間(笑)……そのどんな時でも野球のことを考えなさいと。あと、体のケアは毎日しろと言いました。今年は遠征先でもマッサージを受けてから出かけていますよ(笑)。それに山田はどうしても疲れが残りやすい体質だったみたいで、夜、眠れない日が多かったみたいなんです。でも、今年から青木が使っているのと同じベッドを使用したら、山田には合ったようで、疲れが残らなくなったと。それを聞いた時に、高い意識を持ってやっているなと思いました」

 ここまでの活躍を自ら予感することはあったのだろうか。個人の早出練習を終えて、チーム練習に向かう山田にこんな質問をしてみた。

―― 子どもの頃に、自分は野球がうまいと思ったことはありますか。そして今年、「何かを掴んだかも」という打席はありますか?

「うまいというか、小学生の頃から周りの選手よりは出来ていたのかなというのはありましたけど……。プロに入ってからは、今でも『本当にやっていけるのかな』と思っています。だから、まだ何も掴んでいません」

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