後半戦のキーマン!? あの斎藤佑樹が戻ってきた

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • photo by Nikkan sports

「あのですね、マウンドが掘れ過ぎていて、怖くなったんです。そろっと投げるしかなかったんですよ」

 この日、イーグルスの先発はトラビス・ブラックリーだった。大きな体を生かして上体のパワーで投げてくるブラックリーは、メジャーでは珍しくないプレートの三塁側を踏んで投げるサウスポーだ。ブラックリーは勢いよく踏み込む右足で、マウンドの土をガンガン掘っていく。上体に頼るブラックリーの歩幅が狭いことと、利府のマウンドの土が柔らかかったことも重なって、ちょうど斎藤が左足を踏み込むあたりの位置に、巨大な深い穴ができていた。それが気になったのが 2回以降だったというわけだ。

 しかし、斎藤が非凡なのは、その後だ。

 次の登板となった横須賀の試合でベイスターズの三浦大輔と投げ合った斎藤は、三浦の踏み込む位置との微妙なズレが気になった。前回と同じ轍(てつ)を踏むわけにはいかないと、この日の斎藤はプレートの真ん中を踏んで投げてみた。すると、左バッターのインコースへ、ストレートがいい角度で決まる。左バッターには効果的かもしれない……そう直感した斎藤は、その手応えを一軍復帰直前の最後の登板となった遠軽で確認したのだという。右バッターには今まで通り三塁側、左バッターには真ん中を、そう決めて、斎藤は札幌ドームのマウンドへ向かったのである。ファームでの数字を眺めれば、12試合に投げて1勝4敗、防御率は3.14だったが、そんな数字以上に、斎藤がこの3カ月の間に積み重ねてきたものには意味があった。

 結局、札幌ドームの斎藤は5回を投げて78球、被安打4、与えたフォアボールは2個、奪った三振も2個。内川に打たれた4回のソロホームランによる1失点からもしっかり切り替え、後続を断った。5回にはファイターズの打線が勝ち越し、勝利投手の権利を手にした。この流れで行けば6回、あるいは7回まで、という空気がファームの斎藤には漂っていたのだが、一軍ではその信頼はまだ得ていない。勝ち越したと同時に交代させるのが勝ちへの近道だというのが、厳しいかな、今の斎藤への評価でもある。

 試合後の斎藤は、立ち上がりのことを「緊張しました」と言った。

 しかし、そうは見えなかった。

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