栗山監督の一番の悩み「大谷は平気で泣きを入れてくる」

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • 小池義弘●写真 photo by Koike Yoshihiro

―― そういう監督の未来予想図のイメージは選手にはその都度、伝えているんですか。

「ううん、伝えてません(笑)。だから選手にしてみれば僕の意図がわからないと思うことも多いだろうし、チームの誰にも言ってないことだってあります。僕が考えているのは、孫子の『兵法』にもある通り、最初は温情、次はルール、それから競争意識だということなんです。選手のことを愛するという温情がベースにあるのは変わりません。でも2年目になれば選手との距離感も変わってくるので、去年は組織を生かすためのルールを徹底させたかった。で、3年目の今年、厳しく見えるかもしれない選手交代や一、二軍の入れ替えは、起用法で選手たちに危機感を持ってもらいたいという思いからです。古代中国の時代から何千年もの間、人はこうやって苦しんで戦ってきたんだなということを、改めて感じますよね」

―― そうやって監督が就任当初からブレずに信念を貫いてきた結果、今年、もうひとり、とんでもない成長を遂げている選手がいます。

「確かに(笑)。今、一番ワクワクさせてくれているのは、大谷翔平です。アイツがあの若さで夢見た、誰も歩いたことのない二刀流という道……マンガみたいなことを目指すと言って、実際にそれをある程度、実現させているわけだから、これは本当にすごいことだと思う。ただ、僕の中ではまだまだだと思ってます。だって翔平の持ってるものはこんなものじゃないし、だから腹の立つことも多い。あんなすごい球を持ってるのに、打たれてるでしょ。あり得ない(笑)。でも、ピッチャーとしての素材の良さが出始めてるのを見ると、ホッとしますよね。もともとバッターとしてはプロでもレギュラーの力があることはわかっていたし、ピッチャーとしての翔平が、そのバッターとしての力にどこまで追いつけるのかがカギだと思っていたから……とくにあの甲子園(6月18日のタイガース戦、8回を投げて被安打1、11奪 三振、無四球、無失点の完璧な内容で今季6勝目をマーク)でのピッチングは、やっとここまで来たかと素直に嬉しかったなぁ。僕が見た甲子園での翔平といえば、(花巻東)高校時代、ケガをおしてマウンドに上がって、苦しみながらも必死でカーブを投げていた翔平だった。その姿を思えば、翔平もファイターズに来て少しは前へ進んでくれたのかなと初めて実感できた気がします。やっぱり翔平に関しては、ウチにそれだけの責任がありますからね」

―― とはいえ、高卒2年目だということを考えると、成長のスピードはかなり早いですよね。

「うん、最初はもっと荒々しく抑え始めるのかなと思っていましたけど、案外、落ち着いたピッチングで抑えている。コツのつかみ方が早いのかもしれません。むしろ、あまりピッチャーとして早く進みすぎると体がついていかないんじゃないかと、そっちの方が心配ですよね。まだ19歳で(7月5日で20歳)、体の成長は止まってない。そんな中で体に負荷をかけるわけにはいきませんからね。実際、翔平や上沢(直之、20歳)がマウンドで投げてると、正直、怖くてしょうがない。打たれるんじゃないかという怖さじゃなくて、ケガするんじゃないか、体が持たないんじゃないかという怖さ。いくら体が大きくてもまだ成長段階だし、にもかかわらず、とんでもなく強いボールを投げる。翔平なんて、普通に投げて155キロなんだから。そんなピッチャー、過去にもあんまりいないでしょ。ベースが155キロにあれば、ヒジや肩への負担もかなりのものだし、そういう怖さは、勝てば勝つほど増していく。実際、翔平を代えると、ホッとするもんね(苦笑)」

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