ロッテ・石川歩は大学時代、自らの才能に気づいていなかった

  • 安倍昌彦●文 text by Abe Masahiko
  • 小池義弘●写真 photo by Koike Yoshihiro

「もう、昔の自分じゃないですから」

 近寄りがたい存在になっていたが、ちょっと嬉しかった。前年、当然指名されると思っていたドラフトで空振りを食らったことが、石川を気のいいお兄ちゃんから一人前の選手へと変えたのだ。

 昨年秋に行なわれた日本選手権。左打者のヒザ元を襲うストレートに、社会人の腕利きの打者たちが飛んで逃げる。ストライクコールに対して不満げな表情を見せる打者に、「入っているだろ」と言わんばかりの顔でマウンドを降りながらボールを受け取る石川。その雰囲気、風格はすでに社会人野球を支配していた。

 投手の値打ちを測るいちばんの物差しは“防御率”である。勝ち星にはいくつかの偶然がついてまわるが、防御率に偶然はない。

 開幕してから約2カ月が経ったが、石川の防御率は5月25日現在、2.95。リーグ7位につけている。

 186センチの長身から投げ下ろし、両サイド低目を突くタイプ。高いところから放たれたボールが低い場所を突くほど求道は追いづらくなる。しかも石川の武器はタテの変化だ。ジャッジする者にとっても、あまり見慣れていない球筋だろう。際どいコースを「ボール」にされることもあるに違いない。ただ、ここにきっちりと投げ切ることで、「石川はコントロールがいい」と思わせなければいけない。そう思わせたら、こっちのものだ。

 彼のプロ野球生活を決めるのは、この先の1ヶ月だろう。そこでバッターたちとジャッジする者にどんな印象を刷り込めるか。勝負がかかる。

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