外野席応援団のハンパない体力、知識、野球愛 (2ページ目)

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 いつもならクレデンシャルを首からぶら下げて関係者口から入り、記者席で試合を観る。

 でも、開幕戦は違う。

 入場券を買って、列に並び、スタンドの席を探す。

 今でもプロ野球の券を手にすると、子どもの頃の記憶が蘇(よみがえ)り、血が滾(たぎ)ってくるのがわかる。半券をもぎ取られると、ずっと宝物のように眺めてきた入場券に宿る魂を抜き取られてしまったような気がして、やたらと寂しかった覚えがある。しかし、その魂と引き換えに夢の世界へのゲートを開けてもらえるのだ。暗い階段を駆け上がると、突然、眼下に広がる野球場。憧れのプロ野球選手が目の前にいる――。そんな感動も、仕事で球場へ行くのが当たり前になると徐々に薄れてしまうものだ。そんな童心も思い出せる。 

 開幕戦を、できるだけスタンドで"観戦"してみようと思い立ったのは2011年のことだ。

 東日本大震災の後、開幕を遅らせたプロ野球が、底力を見せようと一体となっているとき、野球の世界のハシクレで仕事をさせてもらっている身として、何が出来るのかを考えた。その結果、些細なことではあるが、開幕戦からしばらく、12球団の本拠地で入場券を買って、野球好きとしてスタンドから試合を観ようと決めた。

今年は、札幌ドームのファイターズ対バファローズ戦の入場券を買った。レフト外野指定席、大人、2千円。席の通路、列、番号を辿ってみたら、なんと、そこはファイターズ応援席のど真ん中だった。さすがにこのトシで立って応援するのは気恥ずかしく、応援エリアの観客が総立ちの真っ只中、ひとり座ったまま試合を観ていた。ふと見ると目の前の一列、13人がすべて明らかに年上のオバサマ方ではないか。そしてミナサマ、総立ちで応援していらっしゃる。立たないことをトシのせいになど、できやしない(笑)。地下鉄のおっちゃんの会話を思い出して、こういう光景は、今や札幌では当たり前なのだと思い知らされた。

 しかもこれ、ファイターズファンの特色だと思うのだが、着ているユニフォームの背番号が、実にバラバラだ。誰とは言わないが、さすがにこの選手のユニフォームは特注だろうと思わざるを得ないマニアックなものをお召しの方も少なくない。前の13人の方の背中を左から読み上げると、吉川小谷野大引中田稲葉宮西斎藤大谷西川大野陽岱鋼BB栗山......グルーっと見渡すと、敵の糸井はいるわ、引退した二岡はいるわ、まさかのレジェンド、島田誠まで(驚)。

 札幌ドームイチオシは、じゃがいも一個がどかんと居座る「頑固オヤジのカレー」である。この豪快さはハンパない。果たして頑固オヤジがどこにいるのかが気にはなるものの、あまり辛くないのに旨みが詰まった正統派カレーを空きっ腹にわしわしと掻き込めば、やがて試合が始まる。するとそこで交わされるオバサマ方の会話もまた、ハンパじゃない。

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