投手・大谷翔平が求めるべきものは「安定感」か「躍動感」か? (2ページ目)

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • 田中正史●写真 photo by Tanaka Masashi

 3回裏、ホークスの攻撃。先頭の2番、今宮健太を追い込んでから、大谷はこの日初めて、"あるテクニック"を使った。

 踏み込んで着地させた左足をさらに踏み込み、地面を蹴って、ポーンと跳ねる。そうすることで上体を前へ運んで、リリースポイントをバッターに近づけることができる。その分、ストレートのスピードとキレが増すというわけだ。以前、大谷はこのテクニックについて、こんなふうに説明してくれたことがあった。

「あれは、意識的にやるときもありますし、無意識になっているときもあります。右腕と左足がクロスしてぶつかったとき、反発をもらえればそうなるんです。ただ、簡単にタイミングを合わせられないので、1試合に何球もってわけにはいかないんですけど、それでも左足をうまく引けて、いい反発をもらえれば右手が勝手に前へ出てきますし、そうなればストレートはかなり速くなると思います」

 しかし──。

 今宮にそのテクニックを使って151キロのストレートで決めにいった瞬間、右足のふくらはぎがつってしまったのだ。大谷はさりげなくストレッチをして、ふくらはぎの筋肉を伸ばそうとする。表情は一切、変わらない。ポーカーフェイスのまま、投げ続ける大谷。

 しかし、4番の李大浩(イ・デホ)に対するツーボールからの3球目、123キロのカーブが高めに抜けた瞬間、異変は誰の目にも明らかとなった。投げた直後、大谷は右足を引きずってしまったのだ。続く4球目もストライクが入らず、ストレートのフォアボールを出した大谷がマウンドの上でストレッチを続ける。ファイターズのベンチは、慌てて動いた。大谷をいったんベンチに下げて、治療を受けさせる。「大丈夫か」という栗山監督の問い掛けに「大丈夫です」と答えた大谷は、再びマウンドへ上がった。

その回の後続は断ったものの、結局、3回を投げ終えたところで緊急降板。61球、被安打5、2失点のピッチングは、ふくらはぎのアクシデントを差し引いてもなお、指揮官曰く「モワーッとした感じで、いい状態ではなかった」という、今ひとつの内容だった。

 確かに「モワーッとした」という指揮官の表現は、言い得て妙だった。

 立ち上がり、先頭の本多雄一に初球をいきなり左中間へ弾き返される。大谷の投じた146キロのストレートは、ど真ん中に吸い込まれていった。何となく不用意に、スーッとストライクを取りにいったという一球――総じてこの日の大谷には、持ち前の躍動感があまり見られなかった。

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