ドラフト5位も実力は本物。ロッテの4番・井上晴哉ができるまで (2ページ目)

  • 佐伯要●文 text by Saeki Kaname
  • photo by Nikkan sports

 井上は、これまで常に4番を打ってきた。広島・崇徳高では1年秋から4番を打ち、高校通算31本塁打を放った。中央大学へ進むと、1年春の東都二部リーグ開幕戦で4番を打って以来、その座を守り続けた。1年秋に一部リーグに昇格し、2年秋には打率.359で首位打者を獲得。3年春はリーグトップの3本塁打、15打点をマークし、一塁手部門でベストナインを2季連続で受賞。同夏には大学日本代表にも選ばれた。3年秋からは不振に陥(おちい)ったが、4年秋にはリーグ6位となって迎えた拓殖大との一部二部入れ替え戦2回戦で流れを引き寄せるソロ本塁打を放ち、チームを二部降格の危機から救っている。

 大学通算(一部リーグ)では88試合に出場し、打率.285、9本塁打、44打点をマーク。プロスカウトに注目されたが、プロ志望届を提出せずに日本生命へ入社した。

「大学日本代表を経験して、プロへ行くようなすごい人たちと比べて、自分は実力がないと感じたんです。社会人へ行って力をつけて、それからプロへ行ければいいと考えました」

 日本生命でも4番に座った2年目のシーズンには、19試合で打率.397、5本塁打、25打点をマーク。日本野球連盟の社会人野球表彰で一塁手のベストナインと最多打点賞を受賞した。

 井上は、社会人時代に打撃技術を進化させた。大学時代はホームランを意識して外角の球も引っ張る打撃が目立ったが、社会人ではそれを逆らわずに右方向へ打つようになり、打撃の幅を広げたのだ。

「フォームは特に変えていないんですよ。変わったのは、意識ですね。大学時代はチームに遠くへ飛ばせる打者がいなかったこともあって、『オレがオレが』という感じでした。大学時代はホームランを打つのが仕事でしたが、社会人になってからは走者を還すのが仕事だと考えるようになりました。4番ということでマークが厳しくなって打つのは難しいのですが、そのなかでも相手投手にイヤな印象を与えることが次の打者につながると思っています。例えば、僕がフルスイングをして見せれば、投手は次の打者で気を抜くこともある。社会人では、そうやっていかに投手のコントロールを狂わせるかが勝負でしたから。打線の『線』をつなごうと、チームバッティングを心がけて右打ちをしているうちに、いろんなことができるようになったんです」
 
 変わったのは、それだけではない。社会人の2年間を経て、性格も別人のようになっていた。大学時代に取材したときの井上は、聞かれたことにはきちんと答えるが、その口調はもの静かで、表情もあまり豊かとはいえなかった。

2 / 3

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る