オープン戦わずか1勝。でも阪神はきっと大丈夫

  • 岡部充代●文 text by Okabe Mitsuyo

 このように書くと、ファンはどんよりとした気持ちになるかもしれない。しかし、裏を返せば、ここまでのチーム成績は、4番候補の本命を欠いた中でのもの、戦力が整っていなかった、とも言えるのだ。楽観的すぎる? 確かに、ゴメスの力は未知数だし、開幕に間に合うかどうかさえ分からない。それでも、13日に初めて甲子園でフリー打撃を行ない、左翼スタンド中段にまで運んだパワーは、やはり魅力的だ。広い甲子園のことを「ノーマルサイズ」と言ってのけ、「ボールをしっかりとらえれば、ホームランを打てる」と豪語したからには、その言葉を実践してもらおうではないか。

 ゴメスの加入で刺激を受けた新井貴浩は打撃好調で打ちまくっているし、サードのポジションを争う新井良太と今成亮太も、それぞれの特長を生かしたバッティングを披露している。キャプテン・鳥谷敬と復活を期す福留孝介には当たりが出ていないが、このクラスの選手は2週間あれば、しっかり上げてくるだろう。マートン、西岡剛もしかり、だ。

 若い力も育っている。打撃センスはピカイチの西田直斗(内野手/20歳)、昨秋のフェニックスリーグから評価を高めている緒方凌介(外野手/23歳)、ルーキーとは思えない積極打法で結果も残している梅野隆太郎(捕手/22歳)。そのひとつ上の世代となる大和(26歳)、俊介(26歳)、上本博紀(27歳)らも、残り少ない実戦でアピールしようと必死だ。下からの突き上げがあれば、チーム力は必ずアップする。

 投手陣に目を向ければ、何と言っても呉昇桓(オ・スンファン)の加入が大きい。絶対的守護神と言われた藤川球児が抜けた昨季は、クローザーが定まらずに苦労した。ベテランの福原忍や安藤優也、加藤康介らが踏ん張ったものの、現代の野球で一番後ろが決まらないのは、勝つ確率を下げる。言い換えれば、9回を任せられる投手の存在こそ、優勝の絶対条件。逆算した投手起用ができれば、ベンチワークも少しは楽になるだろうし、打線にとっても、「1点リードでいい」と思えるのはプラス材料だ。

 先発ローテーションも、ここへ来て固まりつつある。能見篤史、ランディ・メッセンジャー、藤浪晋太郎の3本柱に続く投手がなかなか出てこなかったが、実戦を重ねる中で、4番手に榎田大樹、5番手に秋山拓巳、6番手に岩田稔か二神一人、というところまで絞られてきた。

 1年間、同じメンバーで回すのは無理としても、安芸キャンプ終盤から俄然、注目を集め始めたドラフト6位の岩崎優(22歳)、いまはまだ育成枠だが、開幕前の支配下登録もあり得る伊藤和雄(24歳)ら、生きのいい若手もいる。4番手以降はシーズンを通して競争原理が働く方が、むしろ好結果を生むかもしれない。

 新選手会長の上本は、坂井オーナーからの厳しい"ゲキ"について聞かれ、「見返すという表現はおかしいかもしれないけれど、腹を据えて頑張ります」と言った。普段はおとなしい上本の発言としては、やや強めの言葉を選んだ印象だ。それでいい。オーナーと同じ"危機感"を持った全国のファンを、見返してやればいいのである。

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