沢村賞投手・斉藤和巳
「もうボールを握りたくないほど、野球をやり切った」

  • 田尻耕太郎●文 text by Tajiri Kotaro
  • 繁昌良司●写真 photo by Hanjo Ryoji

 以前、優勝旅行に行った時も、ランニングシューズやグラブだけじゃなく、ダンベルや折りたたみ式のベッドまで持っていっていました。今でこそ優勝旅行中に練習する選手もいるみたいですが、当時はそんなことはなかったですからね。

 そんな生活を30年も続けてきたのに、今は野球をやりたいともボールを握りたいとも思いません。そこまで野球をやらせてもらった球団には本当に感謝です。やり切らせてもらいました。

(引退を)決断したあたりから、今後の人生に目を向けていきました。そんな器用に生きていける人間じゃないので、「これ」という明確なものがあるわけじゃないですけど、リハビリをしていた6年間とは違ったストレスを感じています。心地いいストレスです。こういうことをしてみたいとか、どこまで自分はできるんやろうとか。そんな感覚になれることが嬉しいですし、また自分が成長できるんじゃないかという期待もあります。

 2014年からは福岡の地元テレビ局と地元スポーツ紙で評論家として活動することが決まっている。野球とつながっているという幸せはあるが、一方で「それだけでいいのか」という思いもある。それに、再びユニフォーム姿の斉藤を見たいというファンの声も少なくない。

 色々な幅を持ちたいですね。そうでないと、一生メシを食っていけないですから。どう転んでもいいように、しっかりと地に足をつけて進んで行きたい。指導者ですか? フフフ。正直、指導者になるというのは想像がつきません。でも、そういうことも頭の片隅において、これからいろんなものを見て、勉強していきたいです。


斉藤和巳インタビュー(2)へ続く

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