2013.12.15

サムライ前田智徳秘話。「究極のマイナス思考」と「人生、平均の法則」

  • 高森勇旗●文 text by Takamori Yuki
  • photo by Nikkan sports

 前田の引退試合の日、試合前のバッティング練習。バッティングゲージを出た前田は、バットを見ながら何度も首をかしげていた。さらに、骨折から完治したはずの左手首を見つめながら、あるいはアキレス腱をしきりに伸ばしながら、やはり首をかしげている。最後の最後まで、理想を追い求め、前田智徳であり続けていた。こうした前田の姿は、もはや、ある種の美しさを感じるほどだった。

「試合はオマケみたいなもん。大事なんは、毎日同じ練習を続けること」

 数少ない野球の会話の中で聞くことのできた前田の考え。目の前の結果にとらわれることなく、いつまでも自分の理想を追い続けることが大事だと。この短い発言には、こうした意図があるのではないか。かつてはホームランを打っても、「理想の打球じゃない」と言って首をかしげていた前田。求めるのは結果ではなく、理想なのだ。

 決して妥協することなく、徹底的なマイナス思考で追い込み、自らと向き合ってきた24年間。おそらく、前田の描く理想には到達できなかったのであろう。しかし、前田の残してきた記録、ファンの心に残した記憶、そしてプロ野球の歴史に遺した前田智徳という生き方。これらすべては、後世に語り継がれていくに違いない。

「人生、平均の法則」――前田の持論からすれば、ケガばかりのプロ野球生活を送った前田の第2の人生は明るいものになるはずだ。そんな前田の「これから」が楽しみでならない。

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