2013.12.15

サムライ前田智徳秘話。「究極のマイナス思考」と「人生、平均の法則」

  • 高森勇旗●文 text by Takamori Yuki
  • photo by Nikkan sports

 ある休日にゴルフに出かけた時のこと(余談だが、前田のゴルフの腕前が趣味の域を超えているのは野球界では有名な話である)。前半を終え、スコアが良かったとすると、途端に塞ぎ込んでしまう。「どうしたのですか?」と聞くと、「前半がええ時は、後半は悪いんよ。そういうもんなんよ。じゃけ、後半は最悪じゃのぉ。平均の法則なんよ」と言い、重い足取りで後半のラウンドへと向かって行く。

 それはグラウンドの中でも同じ。練習中、前田はしきりに首をかしげる。自らの動きに納得してプレイすることなど、ないと言ってもいい。練習中に口を開くことはほぼないが、「違う、こうじゃない」と言っている心の声は確かに聞こえてくる。口を開けば、「ええけぇ、ええけぇ」と言ってほとんど取り合ってくれない。何の話をしていても、前田の口から肯定的な発言を聞いた記憶はない。

 そんな前田がある時、突然、私にこんな質問をしてきた。

「おい、オマエはプラス思考の人間か?」

 焦った私はとっさに、「はい!なるべくプラス思考に考えるようにしています!」と答えた。

 すると、「そうか。それじゃあ一流にはなれても超一流にはなれんの」とだけ言い、会話は終わった。

 前田がプロ野球の世界で超一流であったことは、残してきた数字(通算2119安打、295本塁打など)を見ても明らかだ。この発言は、「結果を残したければマイナス思考であれ」と言っているようなものなのか。私は、そうではないと思う。

 前田流のマイナス思考とは、究極に自分と向き合い、突き詰めていく過程そのもののように思える。練習中、しきりに首をかしげるのは、ただ納得がいかないだけではなく、「こんなものじゃない。もっといいスイングができる」という向上心と探究心の表れではないだろうか。

 かつて、アキレス腱断裂という大ケガから復帰した後、なかなか足の感覚が元に戻らないことに絶望感を感じたのか、「もう片方も切れたらバランスが良くなっていいかもしれん」と言ったことがある。前田が残してきた数少ない言葉のひとつだ。この発言も一見投げやりの発言のように聞こえるが、前田にしてみれば大マジメな発言だったのかもしれない。突き詰めて考えた結果、バランスが良くなるためならもう片方も切れた方がいいのではないか、という結論に達したのかもしれない。