保留者ゼロ。なぜ中日の選手たちは「大幅減俸」を受け入れたのか (4ページ目)

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • photo by Nikkan sports

 この協約をタテに減超提示を禁止するように求めれば、年俸が高額なベテラン選手は解雇されるリスクが増える。

 この協約そのものをなくすように求めれば、大幅減俸が続出するリスクが増える。

 この協約から「選手の同意があればOK」の部分を削除し、減額制限を12球団に遵守するよう求めれば、逆に年俸の大幅アップは抑えられるというリスクが増える。

 つまり、ごく一部の減超提示を受ける選手のために減額制限の徹底をゴリ押しするのは、選手側にとってもデメリットが大きすぎるということなのだろう。

 実際、落合GMは、球界のルールに則って、粛々と契約更改を進めた。例年、12月に行なわれてきた主力級の更改も含めて、すべての選手との契約を11月中に終わらせ、減超提示を行なう選手にはトライアウトを受けられる時期までにきちんと契約更改を行ない、選手会にもつけいるスキを与えなかった。山本昌には「50歳までやれ、オレが保証する」と暗に“事実上の2年契約”をほのめかし、48歳の大ベテランに「納得しました」「この歳で戦力と言って頂けるのが一番ありがたい」と言わしめた。大島には「首位打者を獲れ」と叱咤激励をし、200安打を打てる、12球団でナンバーワンのセンターになれると持ち上げてみせた。野球協約を熟知し、揺らぐことのない信念を貫いてきた落合GMだからこそ、井端以外の減超提示を行なった選手の同意を取りつけることができたのだろうし、減額制限いっぱいのダウン提示にも保留する選手が出なかったのだろう。

 あるドラゴンズの元選手からこんな話を聞いたことがある。

「戦力外通告を受けてからいろんな人に報告したんですけど、ほとんどの人が『まだ選手としてやれるだろう』っていう励まし方をしてくれるんです。でも落合監督に話をしたらすぐ、『お前、次の仕事はどうするんだ』って訊いてくれた。実際、他の人の中には、報告したいだけなのに、それさえさせてくれない人もいたほどです。で、ようやく連絡が取れて、クビになったけど次の仕事は決まっているという話をした途端、『なんだ、そうだったのか、仕事くれって話かと思ったよ』ってホッとしたような顔をしている。そんな人には、内心、誰が頼むかよって思いたくもなります。でも落合監督は、自分の方から仕事はどうするんだって訊いてきてくれた。その時は、もう次の仕事は決まっていたので監督のお世話にはならずに済んだんですけど、仕事の内容とか、条件面とか、しっかり納得するまで話をしろよ、と言って下さって、本当に僕のことを心配してくれているんだなということが伝わってきたんです」

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