則本昂大に5イニング。星野監督の「捨て身の采配」は吉と出るか (2ページ目)

  • 阿部珠樹●構成 text by Abe Tamaki
  • 益田佑一●写真 photo by Masuda Yuichi

 そしてもうひとつ挙げるとすれば、則本のリリーフの適性です。今シーズン、則本は早い回にKOされた翌日にリリーフで登板したことがありました。これは中日時代から星野監督がときどき使うやり方で、戒めの意味も多少あったと思いますが、球数の少ないまま次の登板を迎えるよりも、少しでも投げた方が肩も張っていいんです。それに、その投手の回復力を知る判断材料にもなる。そうしたことから出た結論が、則本のリリーフだったのでしょう。

 星野監督の過去の日本シリーズの戦い方を振り返ると、比較的シーズン中の戦い方にこだわってきた印象があります。それが今年は違う。日本シリーズだけでなく、リーグ優勝決定の試合や、クライマックスシリーズでも田中、則本をリリーフで使いました。とにかく勝ちにいく試合は、先発の柱をリリーフに回してまで絶対に取る。こうした起用にはちょっと驚きましたが、それだけ今シーズンの短期決戦に期するものがあったのでしょうね。

 結局、第5戦は、巨人が星野監督と楽天の気迫に押されたような試合でした。9回裏に同点に追いつかれた直後の10回表の攻撃。この回の先頭打者は投手の則本でした。普通に考えれば、この場面は代打でしょう。でも、星野監督は則本をそのまま打席に立たせました。おそらく、いちばん驚いたのはマウンドにいた西村健太朗だったと思います。代打が出てくると予想していたところに、投手がバットを持って出てきた。「絶対にアウトにしなければならない」という気持ちが力みを生み、コントロールを乱して四球になってしまったんだと思います。

 その西村ですが、9回から登板してこの回が2イニング目。先頭の則本を歩かせ、バントで進められたあと、2番の藤田一也にも死球を与えるなど、明らかに動揺している様子でした。でも、巨人ベンチは交代に踏み切れなかった。

 その理由として挙げられるのが、日本シリーズは延長15回までということです。巨人は、すでに澤村拓一、山口鉄也を使っており、もし西村を交代させれば信頼できるリリーフはマシソンしかいない。しかも、10回裏の攻撃では投手に打席が回るため、代打を立てなければならない。そう考えれば、10回は西村でいくしかありませんでした。

 セオリーにとらわれず捨て身の勝負に出た楽天と、リスクを冒さなかった巨人。これが明暗を分けましたね。

 場所を再び仙台に移して行なわれる第6戦は、第2戦で投げ合った田中と菅野智之が再戦します。前の試合の結果から考えれば楽天有利にも思えますが、追い詰められた巨人は総動員で来るはず。もし7戦までもつれれば、則本が第5戦で79球を投げたことが響いてくるかもしれません。まだまだシリーズの行方はわかりません。

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