斎藤佑樹、嬉しくなかった登板で得た最大の収穫 (2ページ目)

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • photo by Nikkan sports

 それでも、ファイターズの栗山英樹監督は斎藤を一軍のマウンドに立たせようと考えた。力が入ってしまうことを承知の上で、あえて斎藤を一軍のバッターに向き合わせることにしたのだ。栗山監督は、この時期に斎藤を一軍で先発させることに関して、こう言っていた。

「アイツの場合っていろんな経験をしているから、一軍で投げないと、思い切り力めと言ってもなかなか力めないよね。力んだときに肩にどのくらいの負担が掛かるのか、それを見極めていかないと、(回復ぶりが)わからない。一軍のマウンドに帰ってきて、メチャクチャ力んで、そういう状態で投げることができて、それでも変な痛みが出ないことがスタートになるんだから......」

 まずは力め。

 力んで投げて、痛みが出なければ、次のステップに進むことができる。

 指揮官はそう考えたからこそ、時期尚早と思われた斎藤の一軍での先発を決めた。

 しかし──。

 その一方で、力んでめった打ちを喰らってしまった反省から、斎藤は力を抜くことを意識しようとしていた。

 9月27日、涼しい秋の風が吹き抜ける、夜の横須賀スタジアム。

 ベイスターズのファームを相手に、一軍での先発を見据えた調整登板に臨んだ斎藤は、2回を20球でまとめ、被安打1、失点ゼロの落ち着いたピッチングを見せた。試合後、斎藤が言った。

「今日の試合に関しては、力を抜くことから始めて、理想的な形で投げられればと思った結果です。真っすぐで三振を取ろうということを意識しすぎない、コントロールも意識しすぎない、こういうフォームで投げようということも意識しすぎない。硬くなりすぎず、ただ何となく、力を抜くことだけを意識して......フォームのどこかを意識することと、力を抜くことはまったく違うんです」

 理想的なフォームは身についてきた。

 ところが試合になると入ってしまう余計な力が、そのフォームに狂いを生じさせる。

 だから、フォームのどこかを意識するのではなく、せっかく体に染み込ませてきたフォームで投げられるように、その前段階で力を抜く。斎藤はせめて、その感覚を確認してから一軍のマウンドに立ちたかった。

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