菊池雄星「ピッチングの『教科書』は捨てました」

  • 中島大輔●文 text by Nakajima Daisuke
  • 甲斐啓二郎●写真 photo by Kai Keijiro

―― そういうときに抑えたから、苦しい場面でも使えるようになった?

菊池 実は、自分自身ではそんなに重視した球ではなかったんです。「チェンジアップもありますよ」くらいの感じでいければと思っていました。でも、銀さん(捕手の炭谷銀仁朗)が積極的に使ってくれて。最初は首を振るケースもあったけど、苦しい場面でもチェンジアップのサインを出してくれて、何とか抑えるうちに自信になりました。

―― また「今年は真っすぐの回転が良くなった」と話していました。

菊池 そうですね。前までは真っスラになっていました。去年までは回転が弱くて、空振りを取れなかったんですよ。今年から空振りが多くなったり、ファウルが多くなったのが変わったところだと思います。今は、困ったらストレートという感じの配球になっていると思います。

―― 炭谷捕手にオープン戦最後の登板のとき、「配球やフォームについて、試合中に何も言わんほうがええか?」と聞かれて、「はい!」と即答したそうですね。それ以降、炭谷捕手は「のびのび投げている感じがする」と言っていました。

菊池 それまでは毎イニングごとに「こうしたほうがいい」と言う話をされていたんですけど、「それをやめようか」という話になったんですよ。それから自分の感覚を重視してできるようになって。フォームや球種など、その日のいいところを自分なりに探すように変わっていきました。

―― 自身について「考えすぎるタイプ」と言っていますが、去年まではマウンドでどんなことを考えすぎていた?

菊池 「フォームをこうしよう、ああしよう」とか、「腕の位置はこうかな」とすごく考えていて。いまも考えるんですけど、決して頭ではなく、体の感覚でできています。今までは理屈で考えていたことを、体の声を聞いて、何を欲しているかを感じて投げているだけなんです。

―― 「こう投げたほうが気持ちいい」と探りながら?

菊池 そうですね。野球だけじゃなく、生活の中でもなるべくそういう感覚を重視しようと思っています。

―― 例えば?

菊池 ご飯を食べる時、前までは「何を食べなきゃいけない」とか「栄養学的にはこうだ」と理詰めでやっていました。今は本当に食べたいものや、「体は何を欲しているんだろうな」という基準で食べています。人付き合いもそうですね。行きたくなければ、「今日はすいません」と断ったり。自分の体の声をなるべく聞くようにしています。

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