野球を辞めることも考えた斎藤佑樹が、
今、戦っている「幻想」

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • photo by Nikkan sports

一軍復帰に向けて調整を続けている斎藤佑樹一軍復帰に向けて調整を続けている斎藤佑樹 珍しく、彼はセンテンスの中で同じフレーズを2度、繰り返した。

「球速を見られてしまうとどうしても難しいんで、120キロ台の真っすぐでも打ち取れましたし、球速を見られてしまうと難しいんで......」

 球速を見られてしまうと難しい――このフレーズに、今の斎藤佑樹の葛藤が象徴されているような気がした。

 2013年7月7日。

 右肩痛からの復帰に向けて、斎藤が3度目の実戦マウンドに上がった。織姫と彦星もうんざりするような暑さの中で行なわれた、千葉県鎌ヶ谷市のファイターズ・スタジアムでの、ファイターズとタイガースのファーム交流戦。斎藤は2番手として3回から登板した。

 3イニングスを投げて、被安打1。その1本がホームランとなり、失点1。

 悪くない内容ではあったが、見るものにはストレートのスピードが物足りなく映ったのだろう。打者10人に投じた21球のうち、ストレートは14球。うち、135キロを超えたのが5球、マックスは136キロ。そのスピードについて報道陣に問われた斎藤は、冒頭のフレーズを2度、繰り返したのである。

 今、斎藤は球速と戦っている。

 誤解しないで欲しいのだが、彼は『もっとスピードを出したい』ともがいているわけではない。今の斎藤が戦っているのは、球速に対する"先入観"である。

 今の自分にはまだ腕を振ることに怖さがあって、どこかで制御してしまっているんじゃないか。

 ならば、新たに取り組んでいるフォームでどのくらいまでスピードが出るものなのか。

 それが何キロであったとしても、そのスピードで一軍のバッターと対峙(たいじ)できるのか。

 現在の斎藤に、肩の痛みはない。右腕も自分自身では100パーセント、振っているつもりだ。それでもスピードが136キロまでしか出ない。この現実を、どう受け止めればいいのか。斎藤が戦っているのはここのところだ。実戦に復帰した後、斎藤がこんなふうに話していた。

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