楽天・則本昂大を覚醒させたライバルの存在

 午後は授業に出席するので、三重中京大の練習は午前中。7時前にはアップが始まる。則本のピッチングも「7時半開始」と予告されていた。

 間違いなく140キロ後半。しかも、この早朝にこれだけ体が動く。もう、学生じゃなかった。時折、打者の顔あたりにボールが抜けるのは、アームの頃のなごりか。それでも、指にかかった時のストレートは伏せるように使っているこちらのミットに、気持ちいいほどに下からめり込んできた。

 さらに、タテのカーブの軌道を、そのまま横に寝かせたような軌道の「則本カーブ」は見たこともない魔球だった。

「でも、自分がここまでなれたのは、こいつがいてくれたおかげなんで。これは事実だからしょうがないんで......」

 となりのブルペンで投げるサウスポーが、さっきからいい音をたてている。

 長谷川亮佑(はせがわ・りょうすけ)。地元・三重高から同期で入学したこの左腕だって、則本がいなければ、バリバリのエースピッチャーだ。ストレートが勝手にスライドするクセ球と巧みな投球術で、全国でも有数の左腕のひとりに挙げられていた。

「自分が土曜日の第1戦で、長谷川が日曜日の第2戦。よっぽどのことがなかったら、これで連勝ですから、ウチは」

 聞きようによっては鼻持ちならないもの言いなのだが、これが長く続く事実なのだから、そうだねぇと聞き入れるしかない。所属する「三重リーグ」で、三重中京大はそれほどの無敗の王者に君臨してきた。

「それでも、日曜日に長谷川がいいピッチングしているのを見ると、なんかそれに嫉妬している自分がいるんです、無意識のうちに......」

 打たれろ、打たれろ、早くこっちに出番が来い。実は、そんな心持ちで僚友の熱投を眺めていたと、則本が笑った。

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