不調なのに今季6勝0敗。エース田中将大はなぜ勝てる? (3ページ目)

  • 津金一郎●文 text by Tsugane Ichiro
  • 小池義弘●写真 photo by Koike Yoshihiro

「カーブも効果を発揮しているんですが、田中がすごいのは、自分の持っている球種の中で、その試合中に打者に有効なボールをいち早く探し出せるところです。試合後にキャチャーの嶋(基宏)から『今日はどのボールが良くて、どのボールが悪かった』というのを聞くと、試合ごとに良い球種が違うんですよね。それで試合を作れてしまう」

 そうした今季の田中だが、走者を出した後のピッチングにこそ真価が表れている。

 5月14日の試合後、中畑清監督に、「悔しいけれど、ピンチになるとまったく変わってしまう。ボールを振らせるテクニックと球威ね。日本を代表するピッチャーだなって思わせられたよ」と完敗を認めさせ、友利投手コーチに「ピンチになるとニュートラルからトップギアに入る。甘い球がこないからね」と脱帽させた。山村氏も、「ピンチになればなるほど力が入るのがマー君らしさ。決して余力を残しているわけではないけれど、ピンチになったら腕を振って、三振でビシッと締める。ピンチを力でねじ伏せるのは大きいですよ。ピッチングに強弱があるから、打線にもリズムが生まれる。また今年は、チーム全体に『田中が投げた試合は絶対に落とせない』という雰囲気があるんですよ。今年に賭けている田中の姿から伝わってくるものがあるんでしょうね」と分析する。

 それを裏付けるのが、先発投手がマウンドにいる間に味方打線が奪った援護点だ。今季の楽天打線は、田中以外の投手が先発した試合での援護点は1試合平均で2.67点に過ぎない。しかし、田中が先発した7試合では44得点、1試合平均6.28点の援護点を奪っている。昨年、田中が先発した22試合での援護点が66点、1試合平均3点だったことからも、今季の田中が打線の援護をいかに引き出しているかがわかる。

 その上で吉井氏は、「調子が悪いなりに試合を作って勝てるんですから、すごいなと思って見ています。この前のDeNAとの試合は良くなりかけているなという印象があったので、もうちょっとしたら、もっと簡単に勝てるかもしれないですね」と見ている。また山村氏も、「田中自身の中に昨年は故障でローテーションを守れなかった悔しさがあるから、今年はローテーションを守ることを最優先にしている。ただ、必ずギアは上げてくるので、調子のピークで本領発揮のマー君がどんな投球をするのか」と楽しみを口にする。

 調子は良くないながらも勝ち星を引き寄せている田中だが、2008年に21勝を挙げた岩隈久志(当時楽天)以来となる20勝投手を期待したくなるというもの。山村氏も「僕は期待していますよ。あの年の岩隈は、開幕からキャッチャーの藤井彰(現阪神)が『座っているだけで良かった』と言うぐらい調子がずっと良かった。でも、今年のマー君はそうではないので嶋は苦労するでしょうけど、岩隈の数字に迫るでしょうね」と、可能性は高いと睨んでいる。

 6勝目をマークしても、「点を取られたことは納得できない。納得できるわけがない」と、さらなる高みを目指している田中。早ければ今オフにもポスティングシステムを利用してメジャーに挑戦する可能性のある日本球界のエースが、今後どういったピッチングを見せてくれるのか、目が離せない。

※5月20日現在

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