不調なのに今季6勝0敗。エース田中将大はなぜ勝てる?

  • 津金一郎●文 text by Tsugane Ichiro
  • 小池義弘●写真 photo by Koike Yoshihiro

 WBCによる調整不足は、前出の山村氏も同意する。さらに吉井氏は、「ひょっとしたら自分のピッチングを良くしようと思って取り入れたことが、逆に自分を苦しめる結果になっている可能性はあります。昨年のダルビッシュも、ツーシームを多投してフォームのバランスを崩してしまった。今年のマー君も何か新しいことに取り組んで、その結果としてバランスを悪くしたのかもしれないですね」と推察している。

 それにも関わらず、負け知らずの6連勝である。15安打を浴びたオリックス戦後にマー君が、「セットポジションのいい練習ができました」と自虐的に振り返れたのも、星野仙一監督が「15本も打たれて勝ち投手になったのを見たのは、監督生活で初めてじゃないか」と目を丸くしたのも、チームを勝利に導くというエースの役割を果たしているからこそ。

 では、なぜ本調子でなくても白星を積み上げられるのか。

 理由のひとつが、カーブにある。もともとカーブは田中の持ち球にあったが、WBC期間中に前田健太(広島)や摂津正(福岡ソフトバンク)、涌井秀章(埼玉西武)がカーブを投げると、田中はベンチ裏モニターのスロー映像で研究。「これまでカーブは抜き方をあまりイメージできなくて苦手だった。こんな抜き方をしているんだと勉強になった」と、一流のライバルからコツを盗んだ。

 今季初登板となった4月2日には、早速リニューアルしたカーブでオリックス打線を封じた。全89球のうち11球カーブを投げ、最速149キロの直球に、球速108キロのカーブを織り交ぜることで生まれる緩急差を巧みに使って打者を幻惑した。

 さらに吉井氏は、田中の意識の高さも付け加える。

「緩い球を投げる時に、とにかく低めに投げている。これが大きい。マー君はスライダーが得意で、それが高めに抜けてしまうと長打を食らうんですが、そうならないように、とにかく低めに制球している。そこは一生懸命、集中して投げていますよね。並のピッチャーは調子が悪いと、そこまで頭が回らないんですけど、マー君はそれができる。そこが一番の成長でしょうね」

 また、山村氏は適応力の高さを指摘する。

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