2013.05.02

吉井理人が語る「日本人投手がメジャーで成功するための条件」

  • スポルティーバ●構成 text by Sportiva
  • photo by AP/AFLO

 そのひとつがツーシーム系のボールが変化しやすいということです。現在、ヤンキースで活躍している黒田博樹投手ですが、メジャーに来てからツーシームの精度が格段によくなりました。曲がりやすいというメジャー球の特性を利用した結果です。メジャー通算355勝を挙げたグレッグ・マダックスのピッチングを見ているみたいで、ボールを動かしながら両コーナーを突いてくる。一見、打てない球には見えないのですが、バッターからすればすごく打ちにくい球なんです。私もメッツ時代にマダックスと対戦しましたが、アウトコースのボールからコーナーギリギリのストライクゾーンに入ってくるツーシームを投げてきたんです。そういう発想自体なかったですし、あの一球は衝撃を受けました。でも、「この球は使えるな」と思って、すぐに練習に励みました(笑)。マイナスのことを考えるのではなく、どうすればプラスになるのかを考える。実は、そうしたことが意外に大事だったりするんです。

 結果を残すことはもちろん大切なことですが、そこばかりに意識がいってしまうと自分らしさというものを失ってしまうと思うんです。松坂大輔投手のメジャー1年目のピッチングを見て思ったのですが、何がなんでも抑えてやろうという気持ちが強すぎたように思いました。打ち取るというよりは、バットに当てさせたくない。必要以上にボールを曲げようとしていましたし、自分の持っているすべての球種を使おうとしていました。ただ、あれは松坂投手本来のピッチングではない。正直、松坂投手のストレート、スライダーなら、そのふたつでも十分に通用したと思います。相手がメジャーリーガーだからといって、無理してボールを曲げる必要はないですし、球種が多いからといって抑えられるものでもありません。

 実は、昨年のダルビッシュ有もそうした傾向がありました。特に前半戦はツーシームを投げようとしすぎて、フォームのバランスを失ってしまったんです。彼は賢いですから、このままではダメだと思って、元のフォームに戻していった。もし、あのままツーシームにこだわっていたらどうなっていたかわかりません。

 松坂投手にしてもダルビッシュにしてもそうですが、日本であれだけの実績を残したピッチャーですし、スカウトも日本で投げているピッチングを評価したと思うんです。メジャーに挑戦することで身構えてしまう気持ちはわからないわけではないですが、まずは自分のスタイルを貫いてほしいと思います。マリナーズの岩隈久志投手やオリオールズの上原浩治投手がいい例です。日本にいる時から、コントロールを重視し、徹底して低めに投げていた。そのスタイルは今も変えてないですよね。黒田投手にしても、ツーシームが決め球になっていますが、基本はストレートが軸です。そこは変わっていません。日本の投手は世界的に見てもレベルは高いですし、日本と同じような投球ができれば十分に通用します。

 そうした中で、唯一の不安を挙げるとすれば体力です。私もメジャーに行ってから中4日のローテーションを経験しましたが、ギリギリ体が回復するかどうかなんです。中4日で、しかも次の登板がデーゲームの時などは、完全に体は回復していません。おまけにメジャーのシーズンは長い。いかに疲労を残さずシーズンを過ごすかが最も重要なことです。技術を磨くことも大事なことかもしれませんが、しっかりトレーニングして強い体を作る。おそらくメジャーで成功している投手が最も大事なことは何かと問われたら、間違いなく「コンディショニング」と答えるでしょう。それがメジャーで成功するための第一歩のような気がします。

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