強烈な負けじ魂が生んだ、ヤクルト・小川泰弘の投球スタイル (3ページ目)

 とりわけ目を引くのが、高めのストレート。地面に叩きつけられるように投じられたボールが、途中から一転、せり上がってくるように伸びる。スイングしたバットのはっきり上を通過していく球筋。ストレートを狙って、渾身のスイングで挑んでくる強打者ほど空振りを奪える、まさにプロの球筋だ。
 
 同様に、カットボール、チェンジアップ、フォークと、ストレートとまったく同じ腕の振りで投げ込んでくる。

「後半のスタミナを考えて、ヒザの上がりを低くしてみたら、いいボールが全然いかなくなって……。自分にはこの投げ方しかないんです」

 ひと言、ひと言が決然としていた。

「とにかく負けたくない。試合に負けたくないし、スピードもコントロールも変化球も、投げ合う相手には絶対に負けたくない」

 負けたくないと、そう言った瞬間、どこかに痛みでも走ったかのように、彼の顔が激しく歪(ゆが)んだ。そんじょそこらの負けん気とは「質」が違う。練習とか試合とか、野球の中だけで培(つちか)った負けん気じゃない。向き合って座り、怖いと思ったのは初めてだった。

「相手を負かすっていう感覚じゃないんです。潰(つぶ)すっていうか……。それぐらいじゃないと、強い相手には勝てない」

 この春、オープン戦で初めて打ち込まれた時、「今度は潰してやりますよ」って平然と語り、記者たちを驚かせてみせた。

 小川に怖い相手はいない。巨人も阪神も怖くない。阿部慎之助(巨人)もエクトル・ルナ(中日)もトニー・ブランコ(横浜DeNA)も目じゃない。

 佐藤由規、館山昌平の戦線離脱、さらに増渕竜義の不調。働き時は……今でしょ!

 強烈な負けじ魂。メラメラと内燃するマグマ。小川泰弘のピッチングに、まだ「底」は見えていない。

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