【WBC】侍ジャパン2009藤川球児「新球に懸けた思い」 (2ページ目)

  • 木村公一●取材・文 text by Kimura Koichi
  • photo byTaguchi Yukihito

 大人の野球――。

 今、藤川はそんな想いを胸に秘めて、野球に取り組んでいる。マウンドでは打者を抑えることに徹する。ただ、ひとりの野球人としては、その姿を少しでも多くの人に見てもらうことで、野球という競技のすばらしさを感じてもらいたいと。

 つい数年前までは、ケガばかりで、いつクビになっても不思議のない二軍選手だった。どうやったらプロの世界で生き残れるのか。頭の中には、それしかなかった。中継ぎの役割から、自分の光明を見いだし、ただひたすら投げた。自分のためだけに。

 だからこそ、今、自分以外の人のために投げること、その重さを背負うことを、藤川は自らに課した。いわば野球への恩返しとして。

 また藤川は、こうも思っている。

 日本は他のどの国よりも野球が盛んで、レベルも高い。WBCはそれを世界に証明する舞台でもある。反面、もし他国との戦いで打たれ敗れれば、それは"日本の野球"が敗れることを意味する。だから打たれるわけにはいかないのだ、と。

「それが僕の考える責任なんです」

 ときには「大舞台を楽しめ」と言われることもあった。北京五輪は結果がすべての戦いの場。しかしWBCは違う要素もある。世界の野球の祭典。

 そう思えれば、少しは楽にもなれる。そう思って、楽しめと。

 冗談じゃないと、藤川は思った。五輪もWBCも、代表という意味ではなんら変わらない。勝たなくてはいけない。楽しむなんて、無理だ。

世界との戦いで得た新しい野球との出会い

 それでも藤川にとって「世界との戦い」は、使命だけに終わるものではなかった。国内でプレイするときには、絶対に得られない体験もある。

 例えば、異様な野球との遭遇だ。

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