【WBC】侍ジャパン2009「イチロー、仲間と戦った37日」

  • 津川晋一●文 text by Tsugawa Shinichi
  • photo by Taguchi Yukihito

韓国との決勝戦では延長10回に勝ち越しタイムリーを放ち、連覇の立役者となったイチロー韓国との決勝戦では延長10回に勝ち越しタイムリーを放ち、連覇の立役者となったイチロー【プレイバックWBC2009】

 それはある意味、衝撃的なシーンだった。送りバントを失敗したイチローはベンチに戻るとひとり座り込み、じっと下だけを見つめていた。目の前には、ベンチの最前列に並んで立ち、声援を送る仲間の背中――。悩み、苦しみ、そして輝きを取り戻したイチローの37日間。

 バトンタッチ。

 イチローが今大会でやっておきたかったことは、これではなかっただろうか。

「みんなで行きたい、というイメージかな。今回は『監督も一緒に』。(原監督とは)世代はもちろん違うんだけど、でもどっちかといったら同じに近い」

 2009年1月7日、神戸のスカイマークスタジアムで自主トレを行なっていたイチローは、練習後に焚(た)き火で暖を取りながらこうつぶやいた。

 前回、王貞治監督のもとで戦ったときには"恥をかかせるわけにはいかない"という意識がイチローの中にあった。特別な存在として尊敬する王監督が、野球の世界的発展のために日本野球を背負い戦う。そんな大きな決断のために、という気持ちが強かった。だからわざと刺激的な言葉を連発したし、先頭に立って盛り上げようとした。

 だが今回の大会は、自分が特別に際立つというわけではなく、ニッポンの野球界を代表する精鋭たちそれぞれが主役であっていい。みんなでもう一度、連覇を目指して突き進もう。そんな気持ちが強かったのではないだろうか。何もかもが初めてだった3年前と違って、日本代表チームの成熟度を、イチロー自身が実感していたからである。

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