【WBC】侍ジャパン2009「若きエースたちが見た松坂大輔」 (3ページ目)

  • 中村 計●取材・文 text by Nakamura Kei
  • photo by Taguchi Yukihito

日本のエースは誰か、キューバ戦で証明した

 松坂大輔という男は、言葉で自分を飾るタイプではない。その分、18番の背中で思いを伝えようとしていた。だからこそ、2度目の登板となったキューバ戦は、エースのプライドにかけ、相応の答えを示さなければならなかった。

 だが、そんな松坂の意気込みに水を差す出来事が起こる。アメリカ移動後の強化試合で実戦調整を行なう予定が、WBCの特別ルールや、レッドソックスからの「過密日程になるので登板は控えてほしい」という要望で、結局1イニングも投げることができなかったのだ。そのため、キューバ戦は中7日のぶっつけ本番となった。

 それでも松坂は、「突然の出来事にはアメリカで慣れました」と動じる様子を見せなかった。アメリカに渡ってからの2年間が、いい意味で松坂を鈍感にさせていた。

「アメリカ人になっちゃえばストレスもなくなりますからね。1年目は我慢していましたけど、2年目からは明らかに変わりましたよ」

 メジャーリーグで驚かされるのは試合日程に関するハプニングだけではない。メジャーリーガーは、大事な商売道具であるグラブやバットを平気で放り投げるし、ヒマワリの種の殻などもベンチ内にゴミ箱があるにもかかわらず足もとに吐く。そんな姿に眉(まゆ)をひそめていた松坂だが、あるときから自分も少しだけその真似をしてみることにした。そうしたら急に楽になった

「ゴミ箱とかも蹴りますからね。でも、それも他の選手の怒り方に比べたらかわいいもんですよ(笑)」

 実戦での調整不足が懸念されたが、アメリカの工業製品のように頑丈なハートを手に入れていた松坂は、完璧な回答を出した。

 第2ラウンド初戦、しかも相手は第1ラウンドで全16チーム中トップのチーム打率(.394)を記録したキューバだ。さまざまな重圧がかかる中、6回を投げ切り、無失点に抑えた。

「相手がキューバだったので、前回の決勝戦と同じような気持ちの入れ方をしました」

 86球中61球がストライクと、ストライク率は約70%に達した。昨季、松坂がレッドソックスで先発登板した全29試合における平均ストライク率が61%だったことを考えると、“別人”のような投球だったといえる。

 試合後、ある記者がこの事実を指摘すると、松坂は「ハハハ」と声を上げて笑い、すかさず「失礼ですね!」とやり返した。その表情からは、松坂にとっても会心の内容であったことがうかがえた。

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