【WBC】侍ジャパン2009「準決勝&決勝の攻防」

  • 石塚 隆●取材・文 text by Ishizuka Takashi
  • photo by Taguchi Yukihito, AFLO

最後のバッターを打ち取った瞬間、ダルビッシュはマウンドで雄叫びをあげた最後のバッターを打ち取った瞬間、ダルビッシュはマウンドで雄叫びをあげた【プレイバックWBC2009】

[準決勝] 日本 9-4 アメリカ @3月22日・ドジャースタジアム

Semi FinalSemi Final サンディエゴから北へ200キロ、最終決戦地・ロサンゼルスへ。待ち受けるは、ベースボール発祥の国、アメリカ。もはや前回大会(2006年)の因縁など、サムライたちには関係なかった。28名の選手全員でつかんだ勝利は、決して奇跡などではない。

全員が主役の侍ジャパン。攻守にアメリカを圧倒!

 準決勝の朝、スポーツ専門チャンネルのESPNで、これまであまり取り上げられていなかったWBCが、長い時間を割いて特集されていた。

 アメリカが決勝トーナメントに進出した途端、国内でも関心が高まってきたのかと思いきや、話題の中心は何てことはない、イチローと松坂大輔だった。メジャーでおなじみのふたりが今夜の対戦相手――この分かりやすい図式なら、アメリカ人の気もひけるのだろう。

 試合前、イチローと松坂の名前がコールされると、日米の観衆から地鳴りのような歓声が、深いすり鉢構造のドジャースタジアムに響き渡った。そう、今夜の主役はチームUSAと、Ichiro、Dice-K......のはずだった。だが、勝負を決めたヒーローは、アメリカ人にとって名前すら知らない男たちだった。

 稲葉篤紀。小笠原道大。

 1点を先制された2回、再びリードを奪われた4回。ジャパンの窮地に、このベテランふたりがつなぎ野球の起点となって反撃を開始。アメリカ先発のオズワルトをKOに追い込んだ。落胆するアメリカ人の観客を横目に、日本人応援団はジャパンの選手層の厚さに胸を張るのだった。

 9回表、アメリカ最後の打者がダルビッシュにツーストライクを奪われた瞬間、ドジャースタジアムの観客は、スタンディングオベーションで最後の1球を待った。それは、日本野球に対する心からの賞賛だった。

 この日、松坂は4回2/3を98球2失点。イチローは6回まで4打数ノーヒット。今大会、ジャパンを牽引する青木もノーヒット。いつものヒーローは精彩を欠いていたが、先のふたりに続く、岩村、川崎、中島らがクリーンヒットを放ち追加点を奪う。そして、松坂からバトンを渡された、杉内、田中、馬原らがアメリカ打線の追い上げを許さない。まさにこれこそが、原監督の提唱してきた"全員野球"だろう。特定の「誰か」ではなく、日替わりでヒーローが現れるところに、今大会のジャパンの強さがある。

 冷たい北風が吹くスタジアムで、リードされてもうつむくジャパンの選手はひとりもいなかった。洪水のような「USA」コールの中、堂々と立ち向かうその姿からは、北京五輪のときに支配していた悲壮感は微塵(みじん)も感じられなかった。

 WBC初打席にもかかわらず、ヘルメットを飛ばすほどのフルスイングで三振した栗原も、伸び伸びやっていた。日本で、この豪快な三振を見た村田修一は、きっと笑顔でエールを送ったことだろう。侍ジャパンの一員として。

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