【WBC】今の前田健太は「日の丸」のために無理をすべきではない (2ページ目)

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • 小内慎司●写真 photo by Kouchi Shinji

 2013年2月17日。山本浩二監督率いるWBC日本代表、その初戦は、広島カープとの強化試合だった。日本代表候補の前田はこの日、カープの先発投手としてマウンドに上がった。

 日本代表の合宿に合流して以来、ただひとりブルペンに入らず、キャッチボールを見ていても、どこかぎこちない。右肩の調子がよくないということで、調整が遅れていることは誰の目にも明らかだった。だからこの日の強化試合で登板を回避することも考えられたが、予定通り、カープの先発としてマウンドに上がっていたため、最悪の事態は避けられたのかと思っていた。

 しかし、目の前の前田は、想像を絶する痛々しい姿だった。

 結果から言えば、前田は日本代表の打線をゼロに抑えた。

 初回は坂本勇人にデッドボールを当てたものの、阿部慎之助を123キロのチェンジアップで三振に斬って取り、2回はワンアウト1、3塁のピンチを背負いながら、稲葉篤紀に136キロのツーシームでセカンドゴロを打たせてダブルプレイで凌ぐ。予定されていた2イニングスをゼロに抑え、それなりの結果は残った。そして試合後、前田はこう話した。

「内容はともかく、結果はゼロに抑えられたのでよかったです。(ストレートのスピードが140キロに満たないことについては)気にしてません。自分の気持ちの中でもそれくらいかと思ってました。力を入れたのに(スピードが)出ていないわけではないですし、まだまだ納得のいかないボールが多くて不安もありましたけど、今の状態で抑えられるかなと思いました」

 この言葉を聞いて、ゾッとした。

 キーワードは「不安」「今の状態」「抑えられる」の3つだ。

 つまり、右肩の状態に不安を抱いている前田ではあるが、肩が万全でない状態であってもゼロに抑えるピッチングはできるということだ。

 なぜ、ゾッとしたのか。

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