【プロ野球】目指すはエースで4番。大谷翔平がいま最優先すべきことは何か? (3ページ目)

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta

 花巻東に入学したとき、大谷は160キロを投げたいという目標を立てた。そして、3年夏の岩手大会で160キロを投げた。できると思って挑戦しなければできるはずがない。できないと思った先に、夢の実現はない。

 だから大谷は、「プロで二刀流なんて無理」「中途半端になる」「ケガをする」「まずはピッチャーとしてやって、ダメなら野手に……」という周囲の声に耳を貸そうとしない。「プロでもエースで4番になれる」――そう思うところから、このチャレンジは始まっているのだ。

 果たして、二刀流は可能なのか。

 その一歩目をこの目に焼きつけたくて、くにがみ球場の三塁側スタンド、その一番上に陣取った。

 眼下に広がるメイングラウンドでは、ピッチャーと野手が一緒になってアップを行なっている。やがて、選手たちは二組に分かれる。メイングラウンドには野手組が残り、投手陣は球場の隣にあるサブグラウンドへと移動した。大谷はといえば、メイングラウンドに残ってベースランニングを始めている。まずは野手としてのメニューに取り組もうというわけだ。

 くにがみの三塁側スタンド、その最上段からは、振り返ればサブグラウンドも見渡せる。つまりこの場所は、投手陣と野手組の練習をほぼ同時に見ることができる“特等席”。大谷が野手のメニューに取り組んでいるとき、投手陣がどんな練習をしているのか。投手陣に合流したとき、野手組が何をしているのかが、ほぼ同時に確認できる。

 ピッチャーがキャッチボールを始めた。大谷は依然として、野手組に混じって一塁ベースを駆け抜ける練習を繰り返している。走塁練習を終えると、今度は野手組から離れてサブグラウンドへ移動した。投手陣はキャッチボールを終え、ノックを受けていた。大谷はひとり、コーチを相手にキャッチボールを始める。野手組がみんなでキャッチボールをしているのだから、そのまま野手組に残ってキャッチボールをしてもいいはずなのに、わざわざサブグラウンドに移動して、ひとりキャッチボールをする。ひとりのせいか、まるでワンマンショーのように、彼の投げる姿が際立ってくる。

 徐々に距離を伸ばし、それが80メートルに達すると、大谷の才能はさらにきらめく。肩、ヒジを柔らかく使い、長い腕をしならせると、右腕から放たれたボールは、グーンと伸びていく。この軌道を眺めているだけでも、やはりこの男、ピッチャーとしてタダモノではないと思わせる。

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