【プロ野球】藤浪晋太郎へ、元阪神ドラフト1位コンビからのエール

  • 谷上史朗●文 text by Tanigami Shiro

 そしてもうひとり、藤浪にエールを送るのが、1987年のドラフトで阪神から1位で指名された野田浩司だ。

「僕なんかは田舎の社会人から来たから、藤浪くんみたいな甲子園のスターとは全然違いますよ。まあ、それでもキャンプではずっと記者が張り付いていて、すごく騒がれはしましたけど。段々、しゃべるのが嫌になっていったこともありましたね。でも、そこは阪神のドライチの宿命。扱いが普通じゃないですから」

 野田は熊本の出身で社会人・九州産交からの入団だったが、関西のマスコミが「ここまで」とは知らなかった。「新人王を狙いますか?」と聞かれ曖昧に頷(うなず)くと、翌日の一面には「新人王奪取宣言!」となっていた。やがてその状況にも慣れ、記者とも信頼関係を築いていったが、野球以外の面でペースを崩さないことが大事だと言った。

「藤浪くんは甲子園で優勝もしていますし、騒がれることに慣れているはず。そこの免疫は誰よりも持っているでしょう。インタビューとかを聞いても、すごく落ち着いているなという印象を受けます。とはいってもまだ18歳ですから、周囲の期待に合わせようとして自分を見失わないこと、焦らないことが大事です。まずは自分のペースでキャンプを始める。そこからですよね」

 現在は社会人野球のNTT西日本で臨時コーチを務め、昨秋のドラフトでも増田達至(西武)、安倍建輝(横浜DeNA)のふたりの投手をプロに送ったが、彼らにも同じ言葉を送ったという。

 そして、今シーズン藤浪はどこまでやれるかという話になると、野田は入団1年目の思い出を口にした。野田氏は開幕から一軍で先発、リリーフと登板を重ねたが、なかなか白星はつかず、初勝利は6月の後半だった。ただ、野田氏は金属バット全盛の社会人野球でもまれてからのプロ入りだったこともあって、「怖さは感じなかった」という。それよりも驚いたのが、プロの対応力だった。

「3打席目、4打席目になると、それまで抑えていた球にもきっちり対応してきた。試合の中での対応力と、次に対戦した時の対応力。ここはさすがにプロという感じで、一度抑えたからといって、次も同じように攻めると絶対にやられる。『これがプロの世界なんだ』って思いましたね」

 萩原も「プロのレベル」という意味で、これに近い話をした。

「たとえば藤浪が、3ボール1ストライクから苦し紛れにストライクを取りに行って、一発を打たれることがあるとします。高校までなら勝負球を反省したでしょうけど、プロではそのカウントに持っていってしまったことがいちばんの反省になる。2ボール1ストライクでどうカウントを整えられるか。このあたりが勝負を分けるカギになっていくでしょうから、藤浪を見る時はそこに注目ですね」

 とはいえ、萩原も野田も、「自分たちになかったものを、彼は持っている」と声を揃え、ふたりとも「1年目から十分に活躍できる」と太鼓判を押した。1965年の第1回ドラフトの石床幹雄から江夏豊(66年1次ドラフト)、田淵幸一(68年)、江川卓(78年)、岡田彰布(79年)、藤川球児(98年)……。果たして48人目となる虎のドラ1は、どんな活躍でシーズンを沸かせてくれるのだろうか。

3 / 3

関連記事

キーワード

このページのトップに戻る