【プロ野球】ドジャーススカウトが語る
「大谷を獲れなかったのは日本球界のためにも残念だった」

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • 日刊スポーツ●写真 photo by Nikkan sports

 結果的に、大谷はファイターズでプロ野球人生を歩み始めることになった。

 しかし、大谷がドジャースではなくファイターズを選んだからといって、高校生がアメリカでなく日本を選ぶべきだというのは暴論だと思う。高校生が卒業した後の道として選ぶ日本とアメリカには優劣があるのではなく、さまざまな違いがある。そして、目標とする最終到達点がメジャーのスーパースターならば、高校から直接、アメリカへ渡るしかないと小島は信じている。

「日本の野球界は、超過保護大国という言い方もできます。もちろん、そういう時代でもありますし、悪いとは言いません。ただ、アメリカでそんなふうに過保護に育てたら、日本人のスーパースターなんか生まれるはずがありません。あとは、言葉のマジックもあったと思います。引き上げる仕組みと、淘汰(とうた)する仕組みと言われていましたが、確かにアメリカでは競争の原理が日本の何十倍も働いています。だからといって最初から淘汰しようとしているわけじゃなく、引き上げようとしているからこそ、細かくプログラムを組んで教育して、育成しようとしているんです。日本は引き上げると言いますが、全員が引き上げてもらえるわけじゃない。メジャーで長く活躍しているのは日本のプロ野球で活躍した選手に多いというのも当たり前なんです。ドラフト1位で指名されるような選手がNPBを経ないで渡米した例は、まだレッドソックスの田澤純一投手だけなんですから。僕はよく登山に例えるんですけど、富士山って5合目まで車で行くじゃないですか。で、そこから山頂へたどり着くと『富士山に登った』と言うんですが、じつは山の半分しか登っていない。富士山に登るというのは、1合目から行くことなんです。アメリカという国にはいろんな民族が集っていますが、アメリカで育った人はアメリカ人なんです。メジャーでも、マイナーから育ってきた選手が本当のメジャーリーガーで、スーパースターはその中からしか生まれない。確かに日本のプロ野球を経由してからメジャーへ行けば、お金もたんまり持ちながら、何年も活躍できるかもしれませんけど、五合目から登ったことにしかならないし、スターにはなれてもスーパースターにはなれない。18歳の子がリスクを背負って行くと宣言したのに、大人がそれを止めようとする日本の野球界に夢はあるのかなと、心からそう思います。才能というのは、リスクを背負ってチャレンジしながら、失敗して、強くなっていくことで磨くしかないんです。チャレンジしようという子を止めて、夢を売るはずの野球界がこれでいいのか、と本当に思いました」

 菊池雄星は悩んだ末に日本を選ぶときに涙を流し、大谷翔平はドラフト前にメジャー行きを発表するというところまで至った。これは小島の情熱に加えて、花巻という土地に育った才能溢れる高校生がもたらした“小さな奇跡”だった。そのことと、他の高校生や他のメジャーのスカウトが辿ってきた足跡を同じにして考えるべきではない。小島が惚れてくれたから、彼らは自分の才能に自信を持ち、メジャーを現実の目標として捉えることができたのだ。

 菊池は婚約目前で、大谷は結婚式の当日に、やっぱり結婚はできないと小島に告げてきた。

 どんなに好きでも、結婚はできない――今はその理由に目を向けることが大切なのだと思う。そこには現状のドラフト制度など、多岐に渡る日本の野球界の諸問題が横たわっている。

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