【プロ野球】ドジャーススカウトが語る「大谷を獲れなかったのは日本球界のためにも残念だった」 (4ページ目)

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • 日刊スポーツ●写真 photo by Nikkan sports

 小島は5年前の冬、菊池雄星というピッチャーがいると知り、花巻まで足を運んだ。そして菊池の才能に惚れ込み、花巻に足繁く通った。よく、「メジャーのスカウトは日本のスカウトと違ってルールに縛られていないから何でもありで不公平だ」という日本のスカウトの声を聞くが、花巻東の関係者は、頑(かたく)なに日本の慣習を守ろうとする小島に感心していた。公式戦はもちろん、練習試合も見に来るし、調子がいいときも悪いときも関係なく足を運ぶ。それも遠くから見るだけで、絶対に自分から選手に接触しようとはしないし、監督や部長に、彼はいつ投げるのかと問い合わせることもしない。菊池も大谷も、そういう小島に励まされてきた。調子が悪くても、伸び悩んでいるときでも、『小島さんが見に来てくれている、自分は小島さんに評価してもらっているんだ』と、自らを奮い立たせることができた。だから、菊池は日本に残る決断を公表する会見で小島のことを思って涙を流し、大谷はいったん、メジャーへ行くとまで決断したのである。小島は大谷との出逢いをこう語る。

「雄星君がプロに進んで、花巻東も少し落ち着いたかなという頃に出向いたんです。大谷君が1年の4月です。もちろん、大谷君のことは知りません。監督さんは、またいい選手が入ってくるんですという話はしていましたが、1年生のことはいい選手だってみんな言うんですよ(笑)。ただ、本当にいい選手は少ないのが現実です。それが、『いい選手って、この子です』って大谷君を紹介されたとき、とにかく驚きました。『何だ、この選手は……これはまた3年間、通わなくちゃいけないじゃないか』と覚悟しました(笑)。まず、動きが素晴らしかった。体は柔らかいし、強さはまだなかったんですけど、ピッチャーとしてはリリースでパ チーンと、バッターとしてもミートの瞬間、パチーンとくる。この子が体を作るまでには相当の時間がかかるだろうと思いましたけど、彼はメジャーでもスーパースターになれる逸材だと本気で思いました。あんなにデカくて、あんなに動けて、あれだけ投げて、あれだけ打てる高校生を見たことがない。日本のドラフトを見ていると、結果が出た選手が最優先ですよね。甲子園で優勝したとか、150キロを投げたとか、通算ホームランが多いとか……そんなことは関係ないんです。韓国のドラフト1位も、アメリカのドラフト1位も、日本のドラフト1位も、誰も大谷翔平じゃない。大谷翔平は大谷翔平なんです。だから、他の例を出しても意味がないと僕は思います。大谷翔平は大谷翔平の道を歩めばいいんです」

 小島はファイターズが大谷を指名してから、一度も大谷に会っていない。ルール上は会っても問題はなかった。そして、ドジャースからもなぜ交渉に行けないのかとせっつかれた。しかし小島は日本の慣習を重んじ、ファイターズがもらした「年内」、もしくはドラフト指名の交渉権が切れる「3月いっぱい」まで待てば、堂々と交渉できると考えていたのだ。ファイターズがアピールしている間、ドジャースの小島はグッと堪えて、ドジャースの魅力を改めて伝える機会を作ろうとしなかったのだ。

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