【プロ野球】ドジャーススカウトが語る「大谷を獲れなかったのは日本球界のためにも残念だった」 (3ページ目)

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • 日刊スポーツ●写真 photo by Nikkan sports

「大谷君がどこに行こうと、ずっと応援していきたい選手であることに変わりはありません。もちろん、彼がドジャースのユニフォームを着てくれたら最高だなとずっと思っていましたけど、彼が自分で決めたことですから……。それはガッカリしましたよ。彼がメジャー志望を公表する会見で『厳しいところに身を置いて自分を磨きたい』と言ってくれたときは、彼は本気だなって思いましたからね。でも、僕が本当にガッカリしたのは、大谷君をドジャースが獲れなかったことではないんです。彼はいったん、メジャー挑戦を表明するところまで至ったじゃないですか。騒がれるであろうことをわかっていながら、彼は決断した。僕はあの時、これで日本の野球界も変わるかもしれないと思ったんです。大袈裟に聞こえるかもしれませんが、大谷君のような選択をする選手が出てくることによって、プロアマ問わず、脱皮できるチャンスだと思いました。たとえば日本の場合、野球をやっている子どもの選択肢が少なすぎる。小学校の時に野球をはじめたら、ほぼ野球だけ。しかも16歳から18歳の3年間という大事な時期に、目指せるものが甲子園しかない。あまりにも選択肢が少なすぎて……野球をやりながらサッカーやバスケットボールをやれないのはおかしいと思うし、高校生になったら野球部に所属して甲子園を目指すという目標以外に、別の夢の持ち方があってもいい。今のドラフト制度のあり方、指導者のあり方、少年野球や高校野球のあり方、プロ野球の経営の仕方……いろんな面でプロアマ問わず、脱皮できるチャンスだった。それがこういう結果になったことで、問題は先送りになってしまうでしょう。それがガッカリなんです」

 プロでケガに苦しみ、3カ国でプロ野球選手としてプレイした小島は、今の日本の野球界に対する問題意識を常に持ち、勉強を欠かさない。小島がドジャースで働いているのは、日本の野球界に新しい流れを作りたいと考えているからに他ならないのだ。大阪で少年野球の指導にかかわり、他競技の関係者とも積極的に交わるなど、小島の活動は多岐(たき)に渡る。小島はかねてから、ポテンシャルの高い高校生がドジャースのプログラムによって育てられたら、メジャーのスーパースターになれると言い続けてきた。そうなれば日本の野球少年にとってメジャーリーガーが身近になる。サッカー界がそうであるように、子どもたちの目指すレベルも高くなり、選択肢も増える。それが底辺拡大につながると考えているのである。小島はそのパイオニアとして、大谷に道なき道を進んで欲しいと願っていたのだ。

「今回、もし大谷くんが高校からドジャースに来てくれたら、間違いなく野球をやっている子どもたちは『すごい、高校から直接、メジャーに行ったよ』って、彼らの心に向かって光を放つことができたと思うんです。そうやって道を切り開こうという、ジョン万次郎のような『よし、誰も通ったことのない道を行ってやる』という子が、やっと出てきた。ただ、誰でもいいというわけじゃないんです。高卒でアメリカへ直接行った選手は何人もいましたけど、日本のプロに行けないからということで、セカンドチョイスとしてアメリカを選んだ子がほとんどです。それでも僕は、彼らから『行かなきゃよかった』なんて声は聞いたことはない。それどころか、自分で決めてアメリカに行ったというその強さは、その後の彼らの人生に必ずいい影響を及ぼすと思うんです。ところが、この国の野球界はチャレンジする子を応援できない。それが不思議でなりません。世の中で何かを成し遂げている人の多くは、99%はリスクだとわかっていてもチャレンジしてきたというエピソードを語っています。僕は、チャレンジさせない業界は絶対に発展しないと思います」

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