【プロ野球】「育成選手制度」の運用にみる球団ごとの温度差 (2ページ目)

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • 日刊スポーツ●写真 photo by Nikkan sports

 大立も、こう話していた。

「支配下にいる二軍の選手は実戦経験を積んで、結果を残せば一軍も経験できるかもしれないし、いろんな可能性が広がる。でも、育成だとジャイアンツ球場からなかなか出られず、練習ばかりで、たまに試合があれば相手は大学生か社会人。何を目標にしたらいいのか、正直わからなくなることもありました」

 この春のキャンプで一軍に帯同した大立は、オープン戦で2度、阪神を相手に投げている。2月19日の那覇では1-0とリードした8回に4番手として登板。俊介、上本博紀、大和の3人を三者凡退に斬って取った。さらに3月11日の甲子園では5回裏、ツーアウト2塁、バッターは3番の鳥谷敬というシビれる場面でマウンドに上がっている。

「阿部(慎之助)さんが、『真ん中でもいいから来い』って感じで引っ張ってくれて、ストレートでファウル、ファウルを打たせて追い込んだんです。でも、カウントが2-2となって、スライダーは拾われそうな気がして、ストレートもレフト方向にパーンと弾かれそうな気がした。ストライクゾーンに投げることができませんでした。で、結局はフォアボール。どこに投げても打たれるイメージを持たされたのは、鳥谷さんが初めてです。ただ、あのオープン戦で投げさせてもらって、すごくいろんなことを経験できたし、いろんなことを覚えました。一軍の選手はオーラも違いましたし、自分の気持ちも全然、違った。プロである以上、一軍を経験してこそ成長するんだと改めて思いました。とにかく、1球投げるのが怖かったなぁ(笑)。最初はどんな感じなのか、わからないじゃないですか。鳥谷さんだけじゃなく、ブラゼルもそうだし、広島の丸(佳浩)さんにしても構えた迫力が違う。ストライクゾーンがきっちりあるはずなのにそのゾーンがドーナツみたいに見えて、ちょっとでも甘くなるといかれるんじゃないかと思っちゃって......でも、そうした緊張感の中でやっていると、自分でも成長しているなと感じることができるんです。杉内(俊哉)さんにもいろいろとアドバイスをもらいました。チェンジアップも教えていただきましたし、『真ん中でもいいから、思いっきり指にかけて、ファウルを打たすんだという気持ちで投げれば大丈夫だよ』って言って頂いて、いい意味で開き直ることができました。打たれても、楽しくてしょうがない。ずっと、ワクワクしていました」

 今シーズンはケガもあって一軍には定着できなかった大立だが、巨人の首脳陣は、大立の気持ちのムラを危惧していた。精神的なコントロールが不得手で、マウンドでも時折、苛(いら)つくのが見てわかる。だから、大事なところで送り出すのには勇気がいるピッチャーだと評していた。それでも、いいときのボールが一級品であることは誰もが認めていた。速いストレート、空振りの取れる変化球は、ショートリリーフのサウスポーとしてうってつけの存在だ。だから巨人は育成での再契約をオファーしたのだ。しかし、大立はそれを断った。ナマイキだ、勘違いしているという声があったのも承知している。それでも、違う世界に飛び出してみたかった。隣の芝は青いと信じたかった。

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