【プロ野球】門田博光からの提言「なぜ、もっとホームランを狙わない」 (3ページ目)

  • 谷上史朗●文 text by Tanigami Shiro

 打てるボールを確実に打てれば、40本も3割も打てる――これが門田氏の持論だ。打撃を極めた現役時代の門田氏には様々な逸話が残っているが、その中でも門田氏のプロ意識を強烈に感じることのできるエピソードを紹介したい。

 南海(現・ソフトバンク)からオリックスに移籍し、1年目のシーズン終えたオフの話だ。この年のドラフトで8球団から1位指名を受けた野茂英雄が近鉄に入団すると、門田氏はすぐさま記者に野茂の実力と球種を確認した。その瞬間、「野茂のプロ初被弾はオレが打つ」とターゲットを定め、オフの期間中、当時自宅のあった奈良のゴルフ場を朝の5時半から貸し切り、12月からの1カ月半、1日にも欠かさずランニングを続けた。そしてシーズンが明け、迎えた近鉄戦。門田氏は見事、野茂が投じた渾身のストレートを日生球場のライトスタンドへ突き刺した。門田氏の狙い通り、野茂が許したプロ初被弾だった。当時の心境を改めて振り返ってもらった。

「打席に立った瞬間、打てると思った。さらにカウントが2ボールになり、次はストレートが来るだろうと思った瞬間、絶対に打てると確信した。この1本を打つためだけに1カ月半、雨の日も雪の日も、朝の5時半から走ったんやから。あれだけ苦しんでやったおかげで神仏も味方につけられた。もし、第1号がオレやなかったら、たとえ神仏でもオレは許さんよ、と思っていたからね(笑)」

 まさしく狂気と背中合わせのプロ魂。何としても打たなければいけないと、プロとしてどこまで思えるか。それこそ門田氏が最も伝えたいことなのだ。

「昨年48本を打った中村は、やっぱりホームランバッターとしてのプライドを持っているんでしょう。そうじゃないと、48本は出せない数字。中田翔やT-岡田という若い選手にも、もっとホームランにこだわってほしい。それにもっと苦しんでほしい。そこまでいった時に見えるものがあるんです。自分の中で常に改革をして、挑み続けていくのがプロ。飛ばないボールと正面から向き合い、それを乗り越えていくのがプロなんです」

 じつは、門田氏の身長は170センチに満たない。天理高校時代はホームラン0本だった選手が、ただ「ホームランを打てるようになりたい」と、社会人の4年間で腕を磨き、プロ入り後もその思いは変わることはなかった。そんな男の言葉は今の選手にどう伝わるのか。

 常に挑戦、常に改革――伝説のアーチストの精神を受け継ぎ、統一球と正面から向き合い挑むスラッガーの登場を期待したい。

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