【プロ野球】斎藤佑樹「野球が嫌いになりそうな時期もあった」

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • 益田佑一●写真 photo by Masuda Yuichi

── あの時期は、たとえば6回を投げて1点、2点に抑えた試合もあったのに、なかなか勝ちがつきませんでしたからね。

「大学時代もそうでしたけど、自分のピッチングがよくなくても勝てた試合ってあるじゃないですか。点を取られても、勝ちがつく試合。そういう試合って、すごく大事だなと思うんです。内容がよくなくても、勝てれば何かしら前に進んでいると思えますから。でも内容がよくても負けると、何も残らないと思ってしまう。とくに、ファームに行ってからは考える時間もありましたから、本当にいろんなことを考えてしまいました」

── 夏の暑い時期にデーゲームで行なわれるイースタンの試合は、さすがに取材する側も堪えました(笑)。ファームでの2カ月、どんなことを考えていたのでしょうか。

「今の自分の何が悪いのか、技術的なことはあったんですけど、でも勝ったり負けたりという中では、それ以外の要素も起こり得るのが野球ですよね。暑さもそうだし、試合の流れとか配球、守りのミス、そういうことも勝ち負けにつながる。だからといって、そういうことをいちいち気にし出してしまうと、自分の中の歯車が余計に崩れてしまうんです。だから、何も考えないような思考力というんですか。考えない力が欲しいと思うようになりました」

── 考えない力。

「そうですね。考える力が余計、野球を難しくしてしまったし、考えない力があればこんなに悩むこともなかったと思います。今まで自分はメンタルが強いと周りの方に言っていただきましたけど、まったくその逆で、自分では弱いと思っていたんです。本当にメンタルが強い人なら常に勝ち続けられるはずだし、悪くてもそれなりにできる。でも自分は高校時代も大学時代も特別なときだけは勝てて、それ以外の試合はたぶん中の上ぐらい(笑)。だから普段からコンスタントに勝っていくためには、技術だけじゃなく、メンタルな強さも補っていかないと難しいのかなと思っています」

―― 野球が嫌いになりそうな時期もあったんですか。

「ありましたね。そうやって考えてしまうことがいいのか悪いのかもわからなくなって……精神的には、なぜこんな疲れるんだろうというくらい、いろんなことを考えました。そんなとき、お世話になったある方に、こんな話をしていただいたんです。人は一本の道しか歩いていないんだ、と。その道は他人から見たらくねくね曲がりまくっていたとしても、前を向いて歩いている自分にはまっすぐにしか見えない。他人から見たら遠回りしているように見えるかもしれないけど、自分が歩こうとしている道は一本で、それはまっすぐで、いちばんの近道なんだから、前へ進み続けることが大事なんだ、と」

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