【プロ野球】「新時代」の到来を予感させた、20歳同士の息詰まる投手戦 (3ページ目)

  • 谷上史朗●文 text by Tanigami Shiro
  • 益田佑一●写真 photo by Masuda Yuichi

 そして第4戦の試合後、中村の投球を振り返り、「『日本シリーズを荒らしてこい』と送り出したんだけど、その通り暴れてくれた。マウンドでの精神状態が素晴らしかった」と称えた。そこで中村や宮國の大舞台を楽しむかのような見事なピッチングで、思わずこんなことを考えてしまった。今年24歳の吉川と21歳の中村、20歳の宮國の間には、何か世代を分けるような1本のラインがあるのではないか、と。

 中村は高校時代、「埼玉のダルビッシュ」と呼ばれていた。近年、長身で球の速い投手にはすぐ「○○のダルビッシュ」の呼び名がつくが、プロ・アマを通して野球界を見てみると、「ダルビッシュ以前」と「ダルビッシュ以降」に大きく分かれるような気がするのだ。ここでいう「ダルビッシュ以降」とは、ダルビッシュがプロで一線級の活躍をしてからという意味だ。

 あれだけの実績を残し、独自の野球観を持つダルビッシュは、技術、意識の面で多くの選手に影響を与えてきた。中村や宮國も、ダルビッシュがプロの世界で大エースに成長していく時期に、中学、高校時代を過ごした。いわば、「ダルビッシュ有」がアマチュア投手たちのバイブルになった世代といえる。

 今年は九州のダルビッシュと呼ばれた武田翔太(ソフトバンク)が高卒新人ながら8勝をマークすると、同じく高卒新人の釜田佳直(楽天)も7勝。1年目から活躍できる技術、体、精神を備えてプロの世界へ進んできた印象が強い。「ダルビッシュ以降」、日本球界にも大きな流れができ、その流れの中で生まれたのが昨日の一戦ではなかったか。

 先日行なわれたドラフトでは、花巻東高校の大谷翔平がメジャー挑戦を表明した。この流れを「日本球界の危機」と見る向きもあるが、まだまだ日本球界には多くの逸材がいる。平成生まれのふたりが繰り広げた鮮やかな投手戦に、そんなことを思ってしまった。

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