【プロ野球】長引いた二軍生活のワケ。斎藤佑樹の歯車を狂わせた「テーマ」と「結果」 (4ページ目)

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • 益田佑一●写真 photo by Masuda Yuichi

 そして8月11日、酷暑の戸田。

 スワローズを相手に、斎藤はファームで2度目の先発マウンドに上がった。この試合でそれなりの結果を出せば、中6日で札幌のマウンドに立てるはずだった。しかし、6回3失点という微妙な結果が、栗山監督の決断を鈍らせた。結局、この日も一軍昇格を見送ったことで、斎藤の歯車は狂ってしまった。

 テーマなのか、結果なのか。
 斎藤は混乱していたようだった。

 8月19日、南三陸でイーグルスを相手に5回を投げ、6点を失った。鎌ヶ谷に戻って8月25日、スワローズには6回で7点を奪われた。しかし9月に入って所沢の西武第二球場ではライオンズを5回2失点に抑えた。しかしここは一軍の日程に余裕があったため、即昇格とはならない巡り合わせの悪さもあった。そして9月13日、好投すればスポットスターターとして一軍のマウンドに戻れたに違いない社会人のJX-ENEOS戦。斎藤は4回までランナーを背負いながら無失点のピッチングで凌ぐも、5回、フォアボールの後、甘く入った逆球をオーバーフェンスされてしまう。これが3ランとなって、結局、6回を投げて被安打10の4失点。栗山監督も視察に訪れたこの日のピッチングで、斎藤の一軍昇格、ローテーション復帰への道は閉ざされてしまった。

 この展開は、栗山監督にとっても誤算だったに違いない。開幕投手を告げようとしたときと同じだ。オープン戦でスカッと結果を残してくれればすんなり開幕投手を告げられたのに、なかなか思うような結果が残らず、タイミングを逸してしまう。結果にとらわれず開幕投手を任せる決断をしたことで、斎藤が大きな仕事を成し遂げたのは記憶に新しい。

 今回も、2度のファームでの登板でそれなりの結果を残せば、指揮官は斎藤をすんなりローテーションに戻すつもりだった。それが、もう少し、もう少しと動かずにいたら、本当に動けなくなってしまう。チームには競争を謳(うた)っている以上、結果を示して欲しい。斎藤には成長を促している以上、テーマを大事にして欲しい。

 斎藤に感じるポテンシャルは、目に見えない部分に頼るところが大きい。だからこそ、判断が難しい。それでも、結果的にはこの指揮官の両方を立てようとした曖昧さが、斎藤から自分と向き合う機会を逆に奪うことになってしまったのではないかと思う。つまり、あのまま一軍で投げ続けて、それでも勝てなければ斎藤はその結果を受け止めざるを得ない。しかし、勝てない舞台が一軍ではないということが、斎藤に勝てない理由を他に探す余地を与えてしまう。指揮官も未来のエースも、こんなはずじゃなかったとモヤモヤしたまま、長くて暑い2カ月を過ごすことになってしまった。

 斎藤はこの2カ月、何を考えていたのか。そして今、彼はどこを目指しているのだろう。ほどなく斎藤に直接、訊いてみようと思っている。

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