【プロ野球】有望アマ選手のメジャー挑戦は、本当に日本球界を空洞化させるのか? (3ページ目)

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • photo by Nikkan sports

 必ずしも、そうではないと思う。

 日本とアメリカでは、育成に対する考え方がまったく違う。メジャーの下に3Aがあり、2A、1A、ルーキーリーグと5つのクラスがあるアメリカでは、高校 を卒業した選手がいきなりメジャーで登板するなどと言うことはあり得ない。どれほどすごいボールを投げていても、メジャーで戦力になり得るピッチングができるとしても、体ができていないうちから投げさせるわけにはいかないという考え方が徹底されているからだ。メジャーのシステムを幼稚園、小学校、中学校、高校、プロと5つのクラスになぞらえるならば、幼稚園児がプロに飛ぶことはあり得ない。ただ、中学生が高校を飛び越してプロになる飛び級は用意されている。それがメジャーの育成プログラムである。

 日本では今年もホークスの武田翔太、イーグルスの釜田佳直など、高卒ルーキーが一軍でバリバリ投げている。もちろん肉体的な成長には個人差があり、18歳にしてプロで投げ続けるだけの体ができあがっている選手もいるのかもしれない。しかし、メジャーではそれはあり得ないという価値観のもと、高校生をどう育てるのかというプランが3年先、4年先まで完璧にできあがっている。

 極めてポテンシャルの高い高校生が、日本とは違うメジャーのプログラムによって育(はぐく)まれたら、オールスター級のスーパースターに育つかもしれない。そうなれば日本の野球少年たちの目指すべきトップクラスのメジャーリーガーが、もっと身近になる。野球少年だけではなく、少年野球の指導者も「イチローや松井秀喜 は特別」と諦めているのと、「目の前にいるこの子もメジャーのスーパースターになれるかもしれない」と目標にできるのとでは、育てる意識が違ってくる。なぜなら、ひとりでも実例がいればメジャーリーガーも現実的な目標になり得るからだ。頂点が引き上げられれば、それだけ裾野は広がる。つまり大谷翔平ほどのポテンシャルを持った選手がメジャーのスーパースターに育てば、大谷を目指す子どもが増え、それだけ日本の野球少年の層は厚くなるという考え方も十分、成り立つ。もちろん、その中からは日本のプロ野球を支える人材だって育ってくると思う。

 大谷がメジャー行きを選択したとして、見落として欲しくないのは、誰よりもリスクを背負っているのは大谷自身だということだ。高校を卒業したばかりの若者がアメリカで暮らし、マイナーからメジャーを目指すのは並大抵の苦労ではないだろう。それでも挑戦したいという18歳の純粋な決断が、日本球界を空洞化させるわけがない。いや、空洞化させてはならないのだ。それどころか、世界の頂点に挑もうというひとりの高校生が、もしかしたらこの国の野球界の未来を変えてくれるかもしれないとさえ思うのだが──。

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