【プロ野球】プロ初登板で見せた、
歳内宏明「虎のエース」への可能性

  • 谷上史朗●文 text by Tanigami Shiro
  • photo by Nikkan sports

「やっぱり歳内にとって憧れの存在は(田中)将大。その憧れの先輩がどんなピッチングをして、なぜあれだけ勝てるのかを、常に見てきたと思います。将大は150キロを超すストレートも変化球もすごいけど、一番の強みは状況を理解して、相手を見られることだと思います。それがあるから勝てるんです。歳内も将大から学んだ部分は大きいと思います」

 そう語ったのは、田中と歳内が中学時代を過ごした宝塚ボーイズの監督である奥村幸治氏だ。ふたりは5歳違いで、一緒にプレイすることはなかったが、歳内がチームに入団した年の夏、田中は駒大苫小牧のエースとして斎藤佑樹と投げ合った。その姿を歳内はスタンドから見つめていた。

 歳内も田中と同じ教えを受け、その後も甲子園、プロと同じ道を進んだ。そして歳内の中には常に「田中将大」の姿があった。奇しくもこの日、田中はデーゲームでのオリックス戦に先発し、勝利こそつかなかったが10回を零封。田中の好投は、歳内にとっても大きな刺激になったに違いない。

 2回に二死三塁から東出の打球にバウンドを合わせ損ない(記録は投手強襲ヒット)1点を失ったが、許したのはこの1点だけ。5回の攻撃の時に代打を送られ交代した。「もう少し投げたかった?」という問いに、「そういう気持ちもありますけど、金本(知憲)さんが同点タイムリーを打ってくれて、チームも勝利できたので良かったです」と答えた歳内。ここで代えられるのが今の実力とも知らされ、歳内のプロ初登板は終わった。
 
 自らの誕生日を劇的な勝利で飾ることになった和田豊監督は歳内について「完全に合格点です。走者を出してから落ち着いていた。何か持っている選手だと思う」と絶賛し、藪恵壹ピッチングコーチも「実践向きのピッチャー。ブルペンより打者相手の方が力を発揮するタイプ」と讃えた。ただ本人に残ったのは満足感や自信よりも、間違いなく悔しさ。一軍と二軍の打者との違いを聞かれ「特には……」と口にした一言からもそんな心境が伝わってきた。

 ともあれ、不振にあえぐ阪神に大きな希望を灯すピッチングだった。「高卒ルーキーに過度な期待は……」という声もあるだろうが、前日まで動きの重かった虎ナインを鼓舞し、甲子園の雰囲気を変えた歳内なら、「将来のエース」を託してみたくなる。そんな夢を抱かせるプロ初登板だった。

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