【プロ野球】プロ初登板で見せた、歳内宏明「虎のエース」への可能性 (2ページ目)

  • 谷上史朗●文 text by Tanigami Shiro
  • photo by Nikkan sports

 2日の試合後と表情も声のトーンも同じ。その姿に「強心臓」をイメージさせるが、以前、こんなことを言っていた。

「よく動じないタイプって言われるんですけど、試合前はいつもすごく緊張しているんです。打ち込まれることをひとりで想像して、それで胃が痛くなるくらい緊張してから試合に入るんです。そこまでしてマウンドに上がったら、それ以上は緊張することはないじゃないですか」

 聖光学院高時代も常勝を義務づけられたチームのエースとして、期待と責任を背負い戦ってきた。「試合になっても背負ってしまうと体が動かなくなるので、試合前にギリギリのところまで追い込んで、試合では目の前の勝負に集中します」と、当時17歳だった少年の言葉にはすでにエースとしての覚悟があった。

「少し緊張した」という広島戦の初回満塁の場面でも、冷静さだけは失っていなかった。10球を要した丸との勝負は、勝てる投手として歩んできた歳内の持ち味が存分に出た場面だった。カーブ、ストレートで追い込み、得意のスプリットを見逃されたあと、ここから7球ストレートを続けた。しかも、捕手の小宮山慎二のサインに首を振る場面も2度あった。

「相手は落ちるボールも頭にあったと思いますし、(首を振ることで)いろいろと考えるだろうと思って......。それにファウルの時のタイミングがあまり合っていなかったので、ボールゾーンで勝負するスプリットより、ストライクゾーンで勝負するストレートを続けました」

 本当の意味でサインに首を振ったのか、相手を惑わすための術だったかは定かではないが、こういったところに勝てる投手としての非凡さがある。決め球のスピリットも、緩急をつけるためのカーブも大きな武器となっているが、これまで歳内が最もこだわってきたのが観察力であり、洞察力だった。そこには「あの男」の存在があった。

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