【プロ野球】「優勝して胴上げを」――鷹ナインが語る小久保裕紀への思い

  • 田尻耕太郎●文 text by Tajiri Kotaro
  • 繁昌良司●写真 photo by Hanjo Ryoji

「去年のキャンプでの練習を見て、コイツは期待できると思った。ボールを飛ばす力はもちろん、そのコツも知っている」

 その柳田に小久保は引退を表明する4日前、アドバイスを送っていた。

「練習のフリーバッティングのときは、全部スタンドに入れるように練習せぇ!」

 それは小久保が若かりし頃、当時監督だった王貞治氏から言われたのと同じ言葉だった。日本一広いといわれるヤフードームを本拠地としてもなお、ホームランアーチストとしてプロの世界で生きていくために、「日々、1センチでも遠くに飛ばす」との思いでバットを振り続けた。19年間も現役を続けることができたのも、2000本安打や400本塁打という輝かしい実績を残せたのもそれに尽きるという。

 そして小久保の引退発表の翌日、柳田は先制の2ランをヤフードームのレフトスタンドに流し打ち、さらにその翌日には延長10回にサヨナラホームランをライトスタンドへ叩き込んだ。

「小久保さんはホームランバッター。だから、僕もホームランという結果で恩返しをしたかった」

 また、小久保への恩返しといえば、先発ローテーションの柱となっている大隣憲司もそのひとりだ。昨年まで、マウンド上で小久保から厳しい表情で叱咤(しった)されては肩を落としてばかりいた左腕が、今や投手三冠(最多勝、防御率、勝率)に挑んでいる。

 小久保自身もまた、「(今季終了まで)やることは変わらない。完全燃焼して、どうせなら惜しまれてやめたい」と語るように、引退発表後は22打数9安打(打率.409)、5打点と勝負強さを発揮している。

「ホークスは一昨年、残り6試合から3.5ゲーム差を逆転して優勝を経験している。まさに今、その状況です。あの経験は必ず生きてくる。僕自身も最後は燃え尽きて、リーグ3連覇を成し遂げて終わりたい」

 小久保の引退発表と同時に息を吹き返したソフトバンクが、残り1カ月ちょっととなったパ・リーグのペナントレースをさらに熱くするはずだ。


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