【プロ野球】陰のMVP候補、巨人・西村健太朗のハンパない頑固ぶり (3ページ目)

  • photo by Nikkan sports

 重いボールだった。しんしんと底冷えのする室内で重い球質はなんとも堪(こた)える。高く抜けない。こんな寒い日に、どんな指先感覚しているんだ。外角はあくまでも外へ。内角のボールもホームベースよりも内へ。放射線状の球筋だ。

 珍しく、外のストレートがシュート回転して中へ入った。

「ちょっと入ったよ!」

 こっちがそう言うより早く、「アカン! あれがいちばんアカン! 外れるときは、構えたミットより外。外に外れとったら、投げ直しが効くけえな」と西村を指導していたのは、広陵高OBの田村忠義さんだった。

 社会人・日本鋼管福山(現・JFE西日本)のエースとしてサイドハンドからの精密なコントロールと揺さぶりで、「社会人のエース」とも評された方だ。この方、なんとドラフトに2度指名され、2度とも断わっている。それも、最初は太平洋(現・西武)の1位、翌年はヤクルトの2位だった。

 いいこと教わっているな……。この言葉は、その場に居合わせた私にとっても、いまだに「金言」となっている。

「全部、外角低目お願いします!」

 そこから先の西村のピッチングは、まさに独壇場。スイッチの入ったときのボールはすごかった。オールアウトロー。ホームベースの一塁側に立て続けにスライダー回転を帯びたストレートを決めてくる。5球に1球あるかないか、指にかかり過ぎたストレートが斜めに飛んでくる。

 ミットを流して捕ろうとしたそんな1球が、こちらのミットをふっ飛ばした。
 
「ナイスボール!」

 マウンドの横から、田村さんが叫んだ。

 すでにもう、40から50球は投げていただろうか。このとき初めて、西村の白い歯がこちら側からはっきりと見えていた。

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