【プロ野球】斎藤佑樹が取り組むべき課題は、二軍という場で克服できるのか? (4ページ目)

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • photo by Nikkan sports

  力を入れて投げれば、抑えられるかもしれない。しかし、それでは次のステージには上れない。リスクは覚悟の上で、敢えて力を抜いて、しかもストライクゾーンに投げる。そのタイミングを掴めば、デフレスパイラルを断ち切れる。そう信じて臨んだ後半戦、最初のマウンドだったが、斎藤は4回、3連打を浴びてわずか53球でノックアウトを喰らった。試合後、斎藤はこうコメントした。

「本当にずっと調子がいいのに、点を取られてしまうのはどこかに原因があるんだと思います」

 調子がいい、というのは真っすぐのキレが維持できていることを指している。それでも点を取られる原因は、コントロールミスにある。そのミスが起こるのは、力の抜き方を体がまだ覚えていないからではなかろうか。

 斎藤は試合後、栗山英樹監督から二軍降格を告げられた。栗山監督はこう言った。

「追い込んでおきながら、勝負球が自分の投げたいところに投げられない。ランナーを出すと、バッターとのタイミングがズレて点を取られないピッチャーだったのに、ランナーを出してもタイミングが合って、止まらなくなっちゃう。何があるんだろう……」

 吉井理人ピッチングコーチはこう考えていた。

「彼のピッチングじゃないよね。今日は大胆に投げることができていて、少しだけよくなっていた。でも、春にできていたピッチングの感覚は取り戻せていない。結果が出なくなって、早い回に点を取られたくないという思いが強くなり過ぎて、ピッチングが小さくなった。だからフォアボールを連発していた。それじゃダメだと、今日はストライク先行でいったんやけど、追い込んでから真ん中で勝負してしまった。そこは違うよね。そのへんの加減……迷っていたり、わからなくなったりしているところがあると思うので、自分のピッチングを取り戻すのにはいい機会だと思う。本人はめちゃくちゃ怒っていると思うんやけど、切り替えてやってほしいですね」

 栗山監督はこうも言った。

「勝負事なんで、他のピッチャーの気持ち、チーム事情、佑樹の気持ちも考えて、こっちの想いだけではうまくいかないこともある。いろんな意味で今年1年間を大きなものにしてあげたいという気持ちは変わっていない。そのために、今の佑樹にとって何が一番いいのか、考えます」

  斎藤の二軍落ちは当然だ、遅すぎる決断だと厳しい声が周りからも聞こえてくる。しかし、今の斎藤が成し遂げなければならないテーマを実践し、自分のものにできる場は、ブルペンでもなければ、ファームでもない。緊張感を伴う一軍の実戦の場で力を抜くことができなければ意味はないし、一軍のバッターを相手にストライクゾーンで勝負できなければ絵に描いた餅だ。斎藤は今、一軍という物差しがなければ克服できないテーマを抱えているのである。

  そんなことは百も承知の上で、栗山監督は斎藤の登録を抹消したのだろう。今年はローテーションの柱に斎藤、打線の柱に中田翔を据えて、この若いスターふたりを育てながら勝つ、ということを掲げて戦ってきた栗山監督だったが、後半戦の初っ端、いきなり監督としての立場を優先させた。

 この決断は、果たして吉と出るのだろうか。

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