【プロ野球】斎藤佑樹が取り組むべき課題は、二軍という場で克服できるのか? (3ページ目)

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • photo by Nikkan sports

 その悪循環を断ち切るために、この日の斎藤は勝ちたいという欲求を敢えて封印し、淡々と、力を抜いて、ストライクゾーンにボールを投げ込むことだけに集中しようとしていた。
 しかし、力は入ってくる。

 2点のリードは、封印したはずの勝利への渇望も思い起こさせる。

 2球目、インコースをえぐるストレートが決まった。この球はいい感じで力を抜いて投げられたように見えた。これで1-1の平行カウントになる。

 そして、3球目。

 2球、ストレートを見せたら、変化球、とりわけスライダーでカウントを取りたい。しかし、その時の斎藤はこんな不安を抱えていた。

「スライダーをまだ思うように操れなくて、カウントを取るときに投げられないんです。これだけ力を抜いているのに、カウントを取るスライダーのフワッという感じが思い出せない。それができるようになったら、すごく変わると思うんですけど……」

 スライダーでカウントを取れない。

 警戒する李大浩なだけに、慎重を期してスライダーではなく、ストレートでカウントを取りにいった。

 そのストレートが、アウトコースの高めに入る。李大浩の長い腕が伸びきったところでちょうど捉えられてしまった。打球は右中間に伸びていく──同点の2ランホームラン。

 斎藤の葛藤は、つまりここにある。

 力を抜いてストライクゾーンに投げたら、打たれてしまう。

  矛盾しているようだが、これもまた厳しい現実だ。力を抜くというのは、体を弛緩(しかん)させるのとは違う。どこにも余計な力が入らず、それでいて体のすべてに必要なだけの十分な力が入っている状態――それが、力を抜くということだ。水の流れに喩えればいい。風によって煽(あお)られた、うねった流れの川ではなく、穏やかな、それでいて力強いたおやかな川の流れ。斎藤が求めているのは、そういうフォームだ。

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