【プロ野球】用心深き剛腕。大竹寛は若き広島投手陣の「最高の師」だ (2ページ目)

 浦和学院高時代の大竹のボールを受けたのは、もう10年以上も前のことだ。『野球小僧』で「流しのブルペンキャッチャー」の連載企画が始まって、10人目ぐらいに受けたピッチャーだと思う。140キロ台の快速球を受けるのにも、時の剛腕たち相手に語り合うことにも、ようやく慣れてきた頃だった。

 受ける日の前日、紅白戦で200球ほど投げていた大竹。「肩が張っている」と言いながら、最初に投げ込まれたボールで、ミットの中の手のひらを「打撲」してしまった。なんだ、このボール。重てぇ......。重いボールというよりは、「重い石」。球状のものを捕球している感じじゃない。ゴツゴツした石か、身のびっしり詰まったサザエの「140キロ」でも受けているような重くて、痛いボールだった。

 ストレートを何球か投げてもらったが、すべてが重くてホップするムラのなさ。生真面目なボールだった。

「よく森先生(監督)から言われます。真面目すぎるって」

 カンくん、カンくん。インタビューでは勝手にそう呼ばせてもらっていたが、大竹には下町の兄ちゃんのような親しみやすさがあった。行った先々で、きっとかわいがられるだろうなと思いながら、「ホンネの話」を聞かせてもらったことを思い出す。

「『お前いいぞ!』って言われても、どうしても信じられないというか、そうは思えないんですよ。本当はボールも伸びていないとか、フォームにも力みがあるとか、悪いところがあるんじゃないかって。わざわざ自分で悪いところを探すみたいな......」

 なかば呆れるように大竹は語っていたが、大人の感性に近かった。だから、コイツはやれると思った。

「そういうことを言われると、余計に自信がなくなってくるんですよ。自分、本当はマウンドでは弱いんですよ。弱気になるっていうのか。そういうところもずっと森先生に注意されているんですけど......」

 そんなことを言いながら、2年生の夏の甲子園では、エースの坂元弥太郎(現・西武)が大会タイ記録となる19三振を奪う中、ブルペンで素晴らしくしなる腕の振りから快速球を投げ込んでいた大竹のほうが、ずっと輝いて見えた。

 そして今年7月16日、中日を8回無失点に抑えたあと、大竹は次のように語っていた。

「今年は何も考えられなかったスタートだったのに、それが8つも勝てて。それはそれですごく嬉しいんですが、これが1年を通してどうなるかと思うと......」

 そんな言い方で、「意外な現実」に対するちょっとした不安をのぞかせていた。相変わらず、疑ってかかっていた。その用心深さこそが「ピッチャー」だ。

 十数年前とは首の太さも、腕の太さも別人のようになったが、繊細な神経はそのまま。広島の次代を担う若き「快腕」たちにとって「最高の師」でもある。

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