【プロ野球】「調子はいい」のに勝てない。斎藤佑樹に訪れた試練の時 (2ページ目)

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • 益田佑一●写真 photo by Masuda Yuichi

 思い出すのは、開幕戦だ。

 初回、あわや先制3ランかと思われた嶋重宣の当たりがわずかにファウルとなって、斎藤は流れに乗った。この栗山のファウルも流れに乗るチャンスではあったが、試合後のコメントを聞く限り、そういうふうには捉えていなかったようだ。以下、伝え聞いた斎藤のコメントはこうだ。

「ファールと思っていたので、仕切り直しという感じで、特に影響はなかったです。待っている間も気持ちの変化はありませんでした」

 声のトーンや表情を感じ取れない字面のコメントからでは彼の真意を窺(うかが)い知ることはできないが、テレビカメラは、サードの小谷野栄一に声をかけられた斎藤が苦笑いを浮かべて頷(うなず)きながら「たぶん」と答える姿を捉えていた。おそらくファウルになるという確信があったのだろう。中断の間、ピッチング練習を繰り返す斎藤は、もう一度、栗山が打席に入るイメージを持っていたはずだ。

ワンボール、ツーストライクから再開。

 4球目は140キロのストレートがアウトコースに外れ、5球目、インコース低めに見せたのはフォークボールだろうか。開幕してしばらくは「投げる必要がなかった(斎藤))という理由からフォークを封印していた斎藤だが、ここ何試合かはたまにフォークボールを投げている。

 これでフルカウントとなって、6球目。

 一転、アウトローを狙ったはずのストレートが、インローに吸い込まれる。それなりに厳しいコースではあったが、栗山がこのボールをセンター前へ巧く弾き返した。

 2ランホームランが、タイムリーになった。2点が1点になったと考えられればよかったのだが、ファウルの0点が1点になったと考えてしまえば、前を向く作業は容易なものではなくなる。続くヘルマンに対してもフルカウントにしてしまい、インハイに抜けたスライダーがセンター前に落ちる。これでワンアウト1、3塁。

 打席には4番の中島裕之。

追い込んでからの4球目は、インコースの厳しいところに投げ込んだ139キロのストレートだった。そのボールを引きつけ、なおかつ腕を畳んで打ちにいった中島は、なんと自打球を右の太ももの内側に当ててしまう。

 やや間があいて、5球目。

 痛いはずの右足で打席の足場を何度も踏みしめる中島に対し、斎藤のチェンジアップが真ん中に吸い込まれていく。低めに投げるはずのチェンジアップが高く浮いた。

 中島のバットが一閃する──。

2 / 4

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る